IS(ISIL)の戦闘員の家族らを収容するキャンプの、治安や生活環境の悪化に、国連などが懸念を強めている。国連の報告によればIS(ISIL)の子供たちは、教育や医療を受ける機会が乏しく、子どもたちは行き場を失っている。IS(ISIL)の過激思想の温床になっている、との指摘も出ている。
「まさに住民同士が殺し合っている状態だ。放置すれば『時限爆弾』になる」。と隣国イラクとの国境に近い、シリア北東部アルホルのキャンプで働く援助団体の女性(23)は、朝日新聞の取材にそう危機感を募らせたそうだ。
国連などによると、内戦が続くシリアで最大規模のこのアルホル・キャンプは約6万人の住民を抱え、IS(ISIL)戦闘員の家族も多い。
2019年3月に陥落したシリア最後の、IS(ISIL)の拠点にいた人々らが収容された。大半はシリア人とイラク人だが、IS(ISIL)に加わった欧米やアジアなど出身の、外国人戦闘員の家族ら約1万人も暮らしている。
IS(ISIL)が2014年6月に、イラク第2の都市モ-スルで「国家」の樹立を宣言した。また、シリア北部ラッカを「首都」と位置づけて、一時はシリアとイラクの領土の3分の1を支配し、世界中から信奉者が集まっていた。
イスラム教の教えを極端に解釈し、従わない住民を処刑するなどして、恐怖を植え付けた。その後、米軍主導の有志連合による空爆などで弱体化し、イラクは17年末にIS(ISIL)との戦闘完了を宣言している。19年3月にトランプ米大統領(当時)が勝利宣言をし、シリアにある最後の拠点をIS(ISIL)は失った。
キャンプにはびこる最大の脅威は、暴力とISの「思想」だ。援助団体の女性によると、住民はISがかつて支配地で女性に強制した、全身を覆う黒い布を着用するように、いまも脅されている。また、子どもの野外教室で音楽を流すと「やめなければ殺す」と言われたということだ。ISは支配地域で音楽を聴くことを禁じていた。この女性は、「常に恐怖を感じている」と声をひそめて語っている。
このキャンプの地域を支配するクルドミリシアによる、3月には一斉操作が行われ、IS(ISIL)の戦闘員125人以上を逮捕し、治安はある程度回復したということのようだ。
国際NGO「国境なき医師団」は3月2日、スタッフの1人がキャンプ内のテントで殺されたと発表している。国際NGO「国境なき医師団」は「悪夢を終わらせなくてはならない」と訴えた。
キャンプでは殺人事件が横行し、国連やクルドメディアによると、今年に入ってすでに約50人が犠牲になっているということだ。斬首や銃撃される事案もあったという。4月中旬にはイラク人男性が、頭や腹部を何度も撃たれて死亡するなど、安全にはほど遠い状態が続いている。