『エルドアン大統領の焦りとアルメニア・アゼルバイジャン紛争』

2020年9月28日

 トルコのスルタン・エルドアンは、よほど戦争が好きなのであろうか。今度はアゼルバイジャンとアルメニアの紛争に、介入する意向だ。述べるまでも無く、エルドアン大統領が考えているのは、イスラム教徒の国アゼルバイジャンを、支援するということだ。

今回のアゼルバイジャンとアルメニアの紛争勃発は、現在アルメニアの領土となっている、アゼルバイジャン領のナゴルノカラバフを巡るものだ。この問題はもう大分前から続いており、アゼルバイジャンとアルメニアとの間では、小規模な戦闘が何度も、繰り返されてきていた。

 今回の紛争勃発の原因は、アルメニア側から砲撃があったことが、原因だとされているが、これはトルコ発のニュースだからそうなのであろう。アルメニアに言わせれば、その逆ということになろう。

 問題はこれまでアルメニアの軍事力が、優位にあったために、アゼルバイジャンは勝利できず、ナゴルノカラバフの奪還もかなわなかったのだが、これにトルコ軍が加わるとなると、様相はガラリと変わろう。

 トルコはアルメニアに隣接していることもあり、陸軍の将兵を多数送り込むことも、簡単であろうし、空軍による攻撃も可能だ。加えて海からの攻撃も容易であろう。そうなるとアルメニアでは壊滅的な破壊が、行なわれる可能性もあろう。

 ところがこのアルメニアはキリスト教国であり、アルメニア正教の発祥の地であることから、欧米のキリスト教社会は、アルメニアの破壊を放置することはあるまい。加えて、アメリカには多数のアルメニア人が居住しており、アルメニア人のロビー活動の優れた点は、誰もが認めるところだ。

その事がこれまでトルコを不利にしていたのだ。アルメニアはトルコが多数のアルメニア人を1915年から、1916年にかけて虐殺したと主張し、アメリカを中心にトルコ糾弾の活動を続けてきていたからだ。それは国際社会の中にあって、トルコを残忍な国家とする、悪いイメージを固定させて来ていたのだ。

トルコは今回の紛争に介入し、アゼルバイジャン側を支援することで、アルメニアを弱体化させる狙いであろう。あるいはアルメニアを崩壊させ、アゼルバイジャンとトルコの領土にしようと考えているのかもしれない。

しかし、このアルメニアとアゼルバイジャンとの紛争は、短期間で戦争に発展し、多くの外国軍を呼び込むことになる、危険性があろう。ヨーロッパはもちろんだが、アメリカやロシアも介入してくる、危険性があろう。

そうなった場合、トルコは対処しきれるのであろうか。エルドアン大統領はシリア、リビア、イラクと軍を進めたが、明確な勝利は何処からも出ていない。中途半端なものになっている。それはトルコが豊かになり、若者は戦争を嫌うようになってきているからであろうし、実は戦費が充分ではないからでもあろう。

いずれにしろ、エルドアン大統領にとっては、アルメニア・アゼルバイジャン紛争への介入は、極めて危険であろう。それはアルメニアが明確な、ヨーロッパ人の国だからだ。つまり、これは宗教戦争であり、人種戦争に発展する、危険性の高い争いなのだ。