『トルコはリビアを失ったか』

2020年9月26日

 トルコがリビアの西側政府GNAを支援してきたことは、世界的に知られていることだ。一時期トルコ軍のリビア進出は、東側政府LNAを追い込み、いまにもGNAがリビア全域を、支配するかのように見えていた。

 しかし、関係諸国からの介入があり、どうもそうでは無くなってきている。9月7日から9日にかけて開かれた会議では、トルコは完全に萱の外に、置かれることになったのだ。一体、GNAのセラジ首相とトルコとの間で、交わされた軍事合意は、どうなってしまったのであろうか。

 セラジ政府は風前の灯、セラジ首相は辞任したいとも言い出している。トルコはGNAへの影響力を失っているのだ。エルドアン大統領は『こんなニュースは聞きたくない』と言っているが、それが現実なのだから仕方あるまい。エルドアン大統領はセラジ首相が6ヶ月、出来れば1年首相の座に留まって欲しい、と考えていた。

 この期間でエルドアンは、GNA軍との結びつきを強化し、経済関係を強化し、リビアへの恒久駐留を実現したかったのだ。それをGNA政府と交わそうと、目論んでいたのだが、どうも状況はその逆に動いている。

 GNAにはハーリド・ムシュ利最高会議議長や、ファタヒ・バシャガ内相という人物たちが、力を持つようになってきているのだ。トルコがGNAへの影響力を弱めるなかで、エジプトはレッド・ラインを引き、リビアへの介入を強めることを、明らかにしている。

 トルコはリビアを手中に収めるために、リビアの周辺諸国に働きかけていた。チュニジアとは同国の政治母体がナハダ党という、ムスリム同胞団であることから、容易に懐柔することが出来る、と思っていたようだが、そうはならなかった。

 トルコはアルジェリアにも働きかけたのだが、トルコの望むことを実行しては、くれなかった。結局トルコはリビアの情況を、自国に有利にしようと考え、リビアの隣国のチュニジアとアルジェリアに働きかけたことは、いずれも失敗に終わったということだ。

 リビアの石油はGANの対抗政府LNAが握っており、どうにもならない。ベルリン会議では平和的解決が合意され、外国軍の介入を拒否しており、軍事解決も拒否されることとなった。これではトルコ軍のリビア駐留は、極めて不都合なものとなろう。

 トルコは軍事バランスを考え、マテイガとワテイヤ基地、そして戦略拠点であるタルホーナを支配することには成功したが、それ以外に進展は無い。トルコは18000人のシリア傭兵などをリビアに送り込み、戦車、戦闘車両、ドローンなどを送り込んでもいるのだ。加えて、巨大な軍事基地を建設してもいる。

 トルコはロシア製のS300、S400も送り込んでいるが、ロシアはLNAの支援に回り、私兵集団ワグナーを送り込んでいる。トルコとロシアとの間では、リビア問題をめぐる合意は、交わされていないのだ。セラジはトルコの支援を最終段階で、和平合意に使おうとしているに過ぎないのではないか。