イラクでは大規模デモが続いている。そのなかでは負傷者が出るのは、当たり前であり、イラクの治安警察が放つ催涙弾に加え、実弾発砲もあることから、死者も出ている。
そのデモの主たる原因は、政府要人による汚職に加え、在イラク・アメリカ軍駐留に反対するものだ。イラク国民とすれば、我が物顔でイラク国内に留まる、アメリカ軍には一日でも早く出て行って欲しい、ということだ。
イラク政府要人の汚職は、いまになって始まったものではなく、いわば神代の昔から、人間がやる汚職であり、別に珍しくもなかろう。そう言ってしまえばおしまいだが、現実はそうなのだ。
もう一つのデモの要因である、アメリカ軍に駐留を止めさせる方は、と言えばそう簡単ではない。イラク議会は既に、アメリカ軍の追放を決めているのだが、他方ではイラク政府の幹部が、トランプ大統領と話し合い、駐留期間延長を進めている。
何故アメリカ軍は出ていかないのかと言えば、石油資源を抑えたい、の一言に尽きよう。アメリカはイラクやイランの石油資源を、私物化したいのだ。それがアメリカが世界の覇権国としての、立場を維持する秘訣なのだ。
アメリカが駐留し続けるのはいわばアメリカとすれば当然のことであり、そこには国際的正義などありはしない。アメリカが望むことは正しいことなのだ。他方イラク政府はと言えば、ことは複雑だ。
もしアメリカ軍が撤退すれば、イラクへのイランの影響力はもっと拡大していこう。そしていわば、イラクがイランの属国化する、ということだ。そのことに対する反発が、イラク国民の中のスンニー派では、極めて強い。
スンニー派ばかりか、イランと同じシーア派国民の中にも、異常なイランの台頭に、激怒している人たちがいる。このためにイラン支持のシーア派と、反イランのシーア派に、イラクのシーア派国民が、分裂してもいるのだ。
問題はこのことに見るように、同じ宗派内でも分裂が起こり、スンニー派でもしかりだ。IS(ISIL)を支持するスンニー派(元サダム体制の軍幹部など)と、その反対のスンニー派がいるのだ。
このことに加え、イラクのクルド人がいる。彼らはイラク北部に自治区を創り、名目上のクルド共和国を形成し、アメリカやトルコの支援を受けている。そのことに加え、ヤズデイ、トルクメン、アゼルなど、多数マイノリテイが存在しており、政府のグリップが緩めば、一気に内乱に繋がる。
従って、イラク政府要人としてみれば、アメリカ軍の駐留には腹が立つが、国内の安定を図るためや、イランのこれ以上の台頭を許さないためには、アメリカ軍が必要ということになるのであろう。
イラク国民はこうした事情を、百も承知の上で自分たちの利益のために、行動を起こしているのだ。従って当分の間は、現在のデモが続く、ということであろう。その舵取りを間違えて、大流血に繋がらないことを、祈るばかりだ。