『ダウトー元首相新党結成へ立ち上がる』

2019年6月 4日

 大学の先生をしていたイスラム史の専門家、穏やかで人を丁重にもてなす人物、それがダウトール氏に対する第一印象だった。もう15年以上前だが、彼の研究室に伺ったことがある。そこには歴史的な絵や写真などが、飾ってあった。

 その後、彼の招待で昼食をごちそうになったことを、記憶している。トルコ人は食事に誘うことが好きで、友人でも客でもそうしてもてなすのだが、穏やかな口調で語る、ダウトール氏の厚意に甘えた。

 その後、彼はエルドアン大統領に抜擢され、政治の世界に首を突っ込んでいくことになった。しかし、彼は正論派であり、エルドアン大統領の様な、力で押す政治には、不向きだったのであろう。

 最後の段階でエドアン統領は、ダウトール氏に『お前は誰のおかげで外相になり、首相になれたと思っているんだ。』と怒鳴ったというのだ。そしてその後、当然のように彼ダウトール氏は首になっている。

 首相辞任後には、何度かダウトール氏が政治の世界に、カムバックするという、噂が流れたが、それは決して容易なことでは、無かったろう。もし、軽々にそうした行動に動き出せば、忽ちエルドアン体制によって、潰されてしまおう。

 それどころは刑務所送りもありうるのだ。だが、今回は本気なようだ。彼の出身地であるコンヤ市での集会で、彼は新党結成を口にしているのだ。しかし、慎重な彼は新党結成とは言っていない。彼は新党ではなく『国家の新しい形』といった表現を、しているのだ。

 彼はそのなかで、国家はいま新しいビジョンが必要だと語り、新しい立ち位置が必要であり、新しい国家の形が必要だと語ったのだ。間接的ではあるが、それは紛れもなく新党結成を、意味している。

 彼はこの集会の中で、政府の経済政策を批判している。また選挙結果についても批判的な言及をしている。まさにこれは彼の決断の始まりであろう、と思われるではないか。その結果は、まさにアッラーの神の知るところであり、いまの段階では何も言うまい。

 今回、ダウトール氏が新党の結成を決断し、しかも政府の批判をしたということは、トルコ国内の空気が反エルドアンに、相当傾いてきているからであろう。イスタンブールの市長選挙では、与党AKPが推した候補者、ユルドルム氏が敗北し、エル御ドアン大統領が票の再計算を命令しても、選挙結果を覆すことが出来ず、エルドアン大統領はついに強権で再選挙を命じた。

 国民はこれにはほとほと、嫌気がさしているのであろう。しかも、エルドアン大統領の切り札だった経済は、通貨リラの暴落を機に悪化したままだ。インフレ、失語湯物価高と三重苦だ。そうした全体の雰囲気を生かし、ダウトール氏には健闘を祈りたい。