アルジェリアではこのところ、民主化を求めるデモが続いている。今回デモに立ち上がったの、は一般市民であり、明確な政治スローガンを、持っているわけでもないし、新政治制度を確立しているわけでもない。
従って、このデモは長期化はしているものの、落としどころが定まっていない、ということだ。これでは、やがて大衆は疲れてしまい、抵抗運動は弱まって行き、最後には元の状態に、戻ってしまう可能性がある。
普通であれば、反政府闘争には中核となる組織があり、その組織が闘争方針を確立し、国民を先導するのが筋であろう。それがないなかで、一つの明るい情報が流れ始めている。それは中核となるべき人物が、現れてきたようなのだ。彼はいま大衆デモの、顧問役のような立場にいる。
彼の名はムスタファ・ボチャチで、弁護士をしているということだ。彼の父は60年代の、反仏闘争の闘士であり死亡したが、当時彼は7歳だったということだ。従って、彼の父の死は、劇的な強烈な印象を、この少年に与えたものと思われる。
彼に正しい政治の在り方を尋ねると、民主主義だと語り、「全体主義者の下では、民主的な政治は行われない。法に従った統治も行われない。その法に従った政治体制が確立した後で、「右と左が話し合い方向を、定めていくのだ。』と語っている。
ムスタファ・ボチャチはイギリスで法学を学び、25歳で卒業している。彼が得たのはイギリスの奨学金だった。ある意味では幸運な人だったと言えよう。しかし、1992年から2002年に続いた内乱では、反政府の人物として逮捕され、拷問を受けている。
その後、イスラミストの弁護士と呼ばれたが、彼はそうは考えていなかったようだ。社会がそのレッテルを張ったにすぎまい。そしてその後、彼はアルジェリア人権連盟の会長に就任している。
また、2012年には議会議員に就任している。だがその後、彼が所属した政治組織に不満を持ち、離脱している。その後は弁護士業に専念するが、やがて再度政治の畑に戻り、運動を始めたということだ。
彼がいま考えているのは、9か月から1年の猶予期間を設けて、次の政権をどう作るかを考え、準備することだ。その新組織には現在の体制側の人物も、軍人も必要であり、排除することはできない。ただし、彼らは大衆の意向を、否定してはならない、ということだ。そうであれば、彼らを受け入れ共に進める。彼らも社会の構成員なのだから、という考えだ。
彼ムスタファ・ボチャチは、『我々が失敗したことを、新時代の人たちに失敗させるわけにはいかない。』という考えなのだ。その彼の考えが、社会全体に広がって行くのか、途中で挫折するのかは、今の段階ではわからない。