『アメリカ・トルコのクルドめぐる攻防』

2019年1月15日

  アメリカとトルコがいま、クルドのミリシアに対する対応をめぐり、真っ向いから衝突している。アメリカに言わせると、クルドのSDFYPGは、IS(ISIL)対応に全面的に協力してくれた戦友であり、彼らを守らなければならない、と考えている。

 他方、トルコにしてみれば、トルコのクルド労働党(PKK)とつながっているYPGは、テロ組織であり放置できない、せん滅すると考えている。トルコにしてみれば当然のことであり、たとえエルドアン大統領といえども、クルドのことで妥協すれば、国民から大反発を、受けることになろう。

 アメリカはそんなことはお構いなしで、シリアからのアメリカ軍の撤退にあたっては、出来るだけ多くの武器を、SDFYPGに残してやりたい、と望んでいる。その武器は近い将来、トルコに向けられるものだということは、全く気にしていないようだ。

 トルコはアメリカ軍のシリアからの撤退を、要求してきていたが、やっとアメリカ軍が撤退の運びとなったいま、その空白を埋めるべく、軍をシリア国境に大移動している。まさに即戦闘の体制を敷いている、ということだ。

 これに対してトランプ大統領は、トルコに対して『もしトルコ軍がクルドを攻撃するのであれば、トルコ経済に壊滅的な打撃を与える。』と脅しをかけたのだ。これにはさすがの、強気のエルドアン大統領も、対応に躊躇していることであろう。

トルコは既にアメリカの仕掛けた経済戦争で(昨年8月)、相当のダメージを受けているだけに、今回のトランプ大統領の脅しは、真剣に受け止められていよう。さて、そうなればトルコはアメリカとの間に、何とかメンツを保ちながらの、妥協を探らなければならない、ということだ。

 多分、トルコとアメリカは、トルコとシリアとの国境地帯に、安全地帯を作り、そこにはトルコ軍が入らないし、クルド側もそこからトルコ側には、越境攻撃をかけてこない、ということであろう。トランプ大統領は脅しをかけた後に、トルコの経済が活性化するよう、支援する用意もある、と語っている。まさに飴とムチの発言だ。

 トルコとてクルドを撲滅したい気持ちは強いが、自国経済を破壊されたくはないし、自国兵士の犠牲も生みたくないだろう。そこでこんな妥協が生まれる可能性が、高くなってきているのではないか。

 トランプ大統領の大口はハッタリであり、武力を伴わない恫喝なのだが、経済で攻撃されたのではたまるまい。それにしても、アメリカはもう実戦が出来ない国になり下がった、ということであろう。考えてみれば、アメリカはベトナム戦争以来、実戦で勝った戦争は一つも無い。