『ムバーラク元大統領の名誉回復』

2018年12月29日

 サダト大統領の後を継いで、長い間エジプトの大統領職を勤めたムバーラク大統領は、アラブの春の嵐の中でムスリム同胞団に追い詰められ、失脚させられることになった。その罪状は独裁、汚職、拷問など、幾つもの嫌疑によるものだった。

 ムスリム同胞団はエジプト人大衆の、生活苦から来る不満を抱え込み、ムバーラク大統領を失脚させるのだが、その後の選挙で、シャフィーク氏と争いムスリム同胞団のモルシー氏が、大統領に就任した。

 そして、そのモルシー大統領の政権は、現在の大統領であるシーシ将軍の率いる、軍のクーデターで倒され、モルシー大統領は獄中に繋がれることになった。つまり、ムバーラク大統領とモルシー大統領は、二人とも大統領公邸から、獄中の人となったということだ、

 ここに来て興味深いことが、起こり始めている。それは、このムバーラク大統領は裁判所で、もっと証言させろと言い出したことだ。述べるまでも無く、ムバーラク大統領は彼が失脚に至る、アラブの春革命の中で、ムスリム同胞団が裏で何をやっていたのか、熟知する立場にいた。

 ムバーラク大統領はムスリム同胞団が、ガザの戦闘員たちを秘密トンネルを使い、エジプト領に入らせ、破壊活動をさせていたと言い出したのだ。ガザから入ったパレスチナ人の戦闘員たちは、容赦なくムスリム同胞団に反対する、エジプト国民を殺していたのだ。

 何故ガザの戦闘員がそこまで、ムスリム同胞団を支えたかというと、彼らの主体はエジプトとのそれと同じ、ムスリム同胞団なのだ。ガザのムスリム同胞団が、戦闘を展開するために、結成したのがハマースであり、彼らは宗教的よりも、政治よりも、戦闘を主体とする組織なのだ。

 アラブの春の頃、カイロではビルの4階から、市民が投げ落とされて殺される、シーンが報道されたし、黒尽くめの戦闘員たちが、行進する様子も報じられた。そうしたネガテイブなイメージはそのうちに、カーテンの後ろに押しやられ、民主的なムスリム同胞団の政権、というイメージが表に出てきた。

 だが、それは全くの嘘だった、モルシ-大統領はエジプトの金産出地域、ハラーイブをスーダンにくれてやり、シナイ半島北部はハマースにくれてやる、ということを工作していたのだ。述べるまでも無く、これはエジプトの国益に、反する行為だった。

 ムバーラク元大統領はこうしたムスリム同胞団による、反国家の動きを全て語ろうとしているということだ。それでは、それが何を生み出すのかということになるが、ムバーラク元大統領はムスリム同胞団の真の姿を、国民に知らせたい。そして、彼自身は非難されるべきではなかったとし、ムバーラク元大統領を失脚させた、ムスリム同胞団に報復すると共に、彼の地位は未だに大統領だ、と言いたいのであろう。

 現在90歳のムバーラク大統領が、大統領職に復帰することを望んでいるとは思えないが、今回の証言で、彼は名誉を回復し、彼の二人の息子も無罪となる可能性が、出てくるということであろう。父親の名誉、そして子供を思う親の愛が感じられる、ニュースではないか。