『トランプ・ショックーシリア撤退』

2018年12月21日

 

トランプ大統領が発表した、シリアからの撤退が関係諸国に、少なからぬショックを与えている。イスラエル、トルコ、シリア、イラン、ロシア、そればかりか、アラブ湾岸諸国にとっても、ショックであったろう。

 加えて、アメリカ主導の合同軍に参加している、ヨーロッパなかでもフランスにとっては、  ショックであったものと思われる。フランスは元シリアを植民地支配していた国であり、応分の責任を感じて、軍を派遣していたのであろう。

 まずイスラエルだが、同国はアメリカ軍がシリアから撤退したことで、味方無しの戦いが、始まるわけだ。しかも、敵はシリアやヘズブラに加え、ロシア、イランがいる。従って、イスラエルはだいぶ苦しい立場に、立たされたということだ。

 イスラエルに残る手段は、IS(ISIL)を支援しシリアを揺さぶることであろうが、ここまでくると、あまり効果はなかろう。大げさに言えば『座して死を待つ。』ということであろうか。イスラエルのネタニヤフ首相はこの、アメリカの裏切りに、歯ぎしりしていることであろう。

 トルコは表面的には、まさに思うつぼであろうが、実際にはそうはなるまい。マンビジュ問題をめぐり,アメリカ軍の撤退を要求していたが、あっさり抜けられてしまうと。単独でシリア軍、IS(ISIL)やヌスラ、そしてSDFに対抗しなければなるまい。

 アメリカ軍がシリアから撤退することで、トルコは多くの敵を一手に抱えたということであろう。トルコ軍の兵器装備は、地域では最も高いレベルではあろうが、同国の敵の後ろには、ロシアやイランもいるのだ。この二つの国がどう動くか、予測は難しかろう。少なくとも、トルコ軍がシリア軍とぶつかるような状況になれば、ロシアもイランも黙ってはいまい。

 シリアについていえば、まさに思うつぼであろう。これでIS(ISIL)の攻撃は沈静化して行こうし、SDFもアメリカ抜きには弱体化して行こう。そうなればロシアやイランの加勢を受け、シリアは盤石の体制になって行く、ということであろう。ただし、シリアにとっては、今後、ロシアやイランがどこまで、シリアの国内政治に首を突っ込んでくるか、ということだ。

 加えて、イランがどこまでヘズブラを支援し、イスラエルとの軍事緊張を高めていくか、ということもあろう。イランはシリアの国内で、イスラエル軍と対峙するのであり、被害を被るのはシリアなのだ。

 イランはどうかと言えば、イランはほくそ笑んでいることであろう。いままではアメリカ軍の存在が、イランの行動にブレーキをかけていたろうが、これからはその心配をする必要はなくなった。

 イスラエルもアメリカの援護を失った今になれば、イランとどう交渉していくかが重要であり、いままでのように、サウジアラビアをあおって、同国から金を引き出すとか、イランの悪口を言いまくるということは、危険の度を高めることになろう。イスラエルがイラン対応をどう変えるかが見ものだ。

 ロシアはと言えば、突然のアメリカ軍のシリアからの撤退で、困惑しているのではないか。プーチン大統領はアメリカ軍の、シリアからの撤退について『理解に苦しむ。』とコメントしている。これからはロシアの独壇場となるわけだが、それはシリアの再建だけではなく、クルド問題もトルコ・シリア関係もシリア・イスラエル関係も、ロシアが面倒見なければならなくなる、ということだ。それはロシアにとっては、結構な負担であろう。

 アラブ湾岸諸国なかでもサウジアラビアの対応は、どう変わるのであろうか。サウジアラビアはこれまでシーア派のなかの、アラウイ派のアサド体制を打倒したい、と息巻いてきていた。そのために、IS(ISIL)や他の反シリアのミリシアに、資金を提供してもいたし、アメリカに対しても、軍事費を負担していた。

 シリア側から見れば、サウジアラビアは明らかな敵であり、アメリカが去ったら、シリアはどうにでも、サウジアラビアをいじめることが出来よう。サウジアラビアはこれに対して、シリアの再建に資金を出すしか、芸はなかろう。

 膨大な額のシリア再建費用の相当部分を、サウジアラビアは負担させられるのではないか。一説によれば、シリアの再建には4000億ドルの資金が、必要と見積もられている。

 もちろん、これにはイエメン戦争同様に、サウジアラビアはアラブ首長国連邦に、協力を求めよう。そして、このことがサウジアラビアのカタールいじめを、終わらせるかもしれない。

アメリカのシリア駐留は、シリア政府がさんざん何の合意もなく、居座っていると非難していたが、こうなると、現実が見えてきているのではないのか。アメリカ軍の駐留は船の安定のために、重しを積んでいるのと同じ、安定材料になっていたのであろう。