『オーストラリア政府の奇策』

2018年12月16日

 

オーストラリア政府はイスラエル政府に対して、西エルサレムをイスラエルの首都と認める、と伝えた。その事は、実は何の進展も無いのだが、パレスチナ側は猛反発している。ハナーン・アシュラーウイ女史が噛み付いたのだ。

 彼女もこのオーストラリアの発表には、何の新味も無いことを分かっているのだろうが、このことをベースにイスラエルが、次の段階に入ることを懸念しているからであろう。西エルサレムを首都と認めたオーストラリアに続いて、同じ声明を出す国が増える可能性があり、その事は各国の大使館のテルアビブから西エルサレムへの移転も、進めるかもしれないからだ。

イスラエルは一応歓迎ということであろうが、もちろん満足はしていまい。そもそも西エルサレムはイスラエル側に、そして東エルサレムはパレスチナ側に、という合意が1980年代だったと思うが、取り決められていたからだ。

 オーストラリアは西エルサレムをイスラエル側の、首都と認めると宣言したことで、何らかの進展があったようなイメージを、与えただけに過ぎないだろう。しかし、それは今後、各国に追従を許していくものと思われる。

 例えばアラブ湾岸諸国はアメリカの圧力もあり、エルサレムをイスラエルの首都と認めなければならない方向にあるが、全てをというわけには行くまい。そこでオーストラリアと同じように、西エルサレムだけをイスラエルの首都と認める、可能性があるということだ。

 その後はまさになし崩しであろう。アラブ各国はイスラエルを正式に承認し、大使館をエルサレムに設立し、次いでエルサレムへのイスラム教徒の巡礼者が、多数押しかけるようになるのではないのか。

 エルサレムはイスラム教徒にとって、メッカ、メジナに次ぐ、第三の聖地であるだけに、以前からエルサレムへの巡礼が、熱望されていたからだ。イスラエルと正式に外交関係を交わしたエジプトやヨルダンからも、エルサレムへの巡礼はまだスムーズには進んでいない。何のことは無い、他のアラブ諸国への、配慮からであろう。

 そうした壁を、今回のオーストラリアの決定は、壊すかもしれない。そうなれば、東エルサレムのパレスチナ住民は、巡礼者からの収入が期待できるし、ヨルダン川西岸地区も新たな訪問先に、組み込まれていこう。

 悲しいのは、こうしたパレスチナの将来への可能性が、パレスチナ政府の要人たちには、認められないということだ。頑迷な考えがあちらにもこちらにも壁を作り、事態を前進させないのだ。それはイスラエル側にも言えることであろう。