2018年5月18日
日本は主権国家か
岡長裕二
はじめに
1951年9月8日、日本政府が調印したサンフランシスコ平和条約第一条の(b)には「連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認する」と記載されている。また、1956年12月18日、国連総会で日本の国連加盟が承認された。しかし、これで日本は本当に主権国家になったのだろうか。
日本政府は、今から5年前の2013年3月12日、サンフランシスコ平和条約発効の日である4月28日を記念して「主権回復の日」と閣議決定した。しかし、富士山の上空は米国に管制権を握られたままであり、2017年11月5日に日本の公式実務訪問の賓客として来日したトランプ大統領は、横田基地から堂々と日本へ入国した。米国から見れば、日本はグアムやサイパンと同列ということなのだろう。
かく主権を侵されても、日本政府は文句を言わないばかりか、大歓迎している。トランプ大統領と安倍首相との記者会見で、安倍首相は、「完全に意見が一致した」と述べたが、或る外国の新聞などは「日本は、議論など要せず最初から一致するつもりだったのだろう」と揶揄しているそうだ。
GDPはこの30年まったく上がっていない!
軍事力は国力を表す一つの指標であるが、それに劣らず、GDPも国力を表す一つの大きな指標であると、私は思っている。かつては日本のGDPは世界第2位であった。この頃に海外での活動が多かった私は、日本人が黄色人種であるなどとの卑屈さを一度も感じたことが無いばかりか、むしろ大威張りで白人と折衝していた。南アなどでは、アパルトヘイトの時代でも、黄色人種の中で日本人だけは名誉白人とされ、特別扱いされていた。これもGDPのお蔭である。習近平がエリザベス女王と馬車で同乗出来たのも、中国がGDPで世界第2位にのし上がったためだと、私は理解している。
それほど大切なGDPだが、1991年の冷戦終了から26年間、日本のGDPは500兆円を前後しているだけの状態である。2016年12月8日、閣議決定で計算方法を変えて1994年に遡って数字だけ増やしたが、それでも名目1.4四倍である。この間、中国は27倍、米国は3倍に増加している。円安も手伝って、一人当たりのGDP比較では、日本は世界第22位(2016年)で、シンガポールや香港の後塵を拝しているのだ。仮に4万ドル以上を一流国民と定義すれば、日本人は完全に二流国民に落ちている。「金持ち国日本」は、完全に昔の話なのである。
それにも拘らず、日本は、安倍政権になってからの今日でも、中国包囲の為か、米国に代わって30兆円以上を海外へばら撒いている。日本が戦後の焼野原から立ち上がって、GDPが500兆円となったことは、アメリカのお蔭が大きかったと私は考えているが、冷戦終了の1991年頃からは、実質、日本人の給料も下がっている。この状況下、いつまで100%従米隷属を続けるのか。一日も早く、外交・経済のスタンスを、アメリカ40%、中国30%、ロシア30%くらいに変える必要があるのではないだろうか。
日米安全保障条約・第六条日米地位協定
ポツダム宣言第12条には、「日本国国民が自由に表明した意志による平和的傾向の責任ある政府の樹立。これが確認されたら占領は解かれる」と書かれている。しかし、戦後73年、未だ実質的には占領軍が日本に存在している。日米安全保障条約は、サンフランシスコ平和条約締結の取引条件として締結もやむを得なかったと私は理解しているが、同条約発効後66年が経過しても全く変わらないばかりか、2005年の日米外務大臣・防衛大臣による協議の結果発表された「未来のための変革と再編」で見られるように、日米軍事協力対象を極東から世界にまで広げており、益々従米隷属に加速がついているように感じられる。
FMS協定(Foreign Military Sales協定。有償による米国政府からの購入協定)に基いて、我が国は、納期も値段も確定しない米国武器を有難がって購入している。今や自衛隊のあらゆる装置・システムは米国のシステムに組み込まれており、米国抜きでは一切機能しないといわれる。その状態を脱却して、独自の防衛システムを構築し、武器や装備などは複数国の競争入札などで購入するようでなければ、日本は独立国と言えないのではないだろうか。
また、現状で米国の占領を正当化する役割を果たす日米地位協定は、多くの点で改定を要すると思われる。例えば、17条1項に「合衆国の軍当局は、合衆国の軍法に服するすべて者に対し、すべての刑事及び懲罰の裁判権を行使する権利を有する」と書かれており、一方で「日本国の当局は、日本国の法令によって罰することができるものについては、裁判権を有する」と書かれている。一見平等に規定されているようにみえるが、その実「軍法に服するすべて者」の線引きが不明なため、実質的に日本には裁判権が殆どない。同条5項には「日本国による公訴が提起されるまでの間は、合衆国が(拘禁を)引き続き行うものとする」と書かれている。すなわち、日本は任意同行による事情聴取も出来ないのだ。これでは日本側で起訴し、裁判を行うことはできない。
トランプ大統領の「横田入域」の意味
我が自衛隊がスーダンなどへ国連の要請に基づき派遣される場合、国連経由の地位協定で派遣されている。日米地位協定はそうした国際的に認められた地位協定と大きく違いはないという反論もあるかもしれない。その観点から見ると、一番の問題は第25条に記載の有る「合同委員会」の機能・運用の現状にあると思われる。この規定の条文を見る限りでは、合同委員会はいつでも開催が可能で、対等に協議出来ると理解されるが、実質的には、この委員会が米国の要望の受付窓口化しているのである。つまり、日本側にとって、対等な議論で米国の無理な要求を跳ね返す場とはなっておらず、単に米国の要望に従う場となっているのだ。そして、嫌がる日本の住民を従わせ、米国には「説得しました」と報告してご機嫌をとるというだけの機関になり下がっている。第2条2項には「いずれか一方の要請があるときは、(施設及び区域に関する)前記の取極を再検討しなければならず、」と書かれており、更に第3条2項には「合衆国は、(1項に定める措置を)日本国の領域への、領域からの又は領域内の航海、航空、通信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によっては執らないことに同意する」と書かれているが、最近の横田基地へのオスプレイの飛来、もっと大きな問題の横田ラプコンの設定などを見れば、日本側の合同委員会メンバーが本気で交渉しているとはとても思えない。やはり単なる要望受付窓口に堕しているのは明らかだ。
前述したように、トランプ大統領は横田基地から入国した。公式賓客としての来日する時の大統領は、日米地位協定書第1条の記載の「軍の構成員」か、「軍属」か、はたまたその「家族」なのだろうか。確かに大統領は軍の総司令官という立場も持つだろうが、我が国の「公式賓客」として来日する人物を、まず「軍の構成員」と理解することは大変難しい。何故、表玄関である羽田・成田から入国しなかったのであろうか。日本政府はそれに抗議をしたのだろうか。むしろ、歓迎一色だったように見える。この一事を見ても、米国が日本をグアムやサイパン並に考えていることが分かるというのに。
更に最近、北朝鮮に拘束されていた3名の米国人が解放されたが、この時、横田基地でトランジットしている。横田基地は第1条で規定した者以外でも利用可能なのだろうか。日本側合同委員会の許可を取ってトランジットしたとは、とても思えない。緊急避難としてやむを得ないものとはいえ、横田基地はアメリカの領土ではなく、あくまでも地位協定の利用許可に基づいて米国が利用しているに過ぎないはずだ。野放図に規定範囲を超える利用が為されているように思える。
さて、第24条には、基地のすべての費用は、日本側が提供する施設に係るコスト等を除き、「この協定の存続期間中日本国に負担を掛けないで合衆国が負担する」ことが合意されている。しかし、この協定とは別枠で、日本は思いやり予算として7,600億円(2016年度)を計上、これは、ドイツの約14倍、韓国の約7倍だ。思いやり予算が他国に比べ圧倒的に多い理由として、日本政府は「日米安保条約が片務協定になっているから」と説明しているが、もし、その説明が事実だとすれば、集団的自衛権を認める法律が成立し、多少片務性が解消されたから、思いやり予算は減額する方向に向かうはずである。ところが、今後増額する可能性まであるというのだ。
ついでに言えば、日米安保条約で、事あるごとに、日本政府は、「尖閣諸島は、第5条の対象である」ことを米国に確認しており、日本国民に対して、いざ外敵からの攻撃がある時は米国が尖閣諸島を守ってくれるような印象を与えているが、日米安保条約第5条には「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と書かれているだけで、適用されると云っても直ちに米軍が尖閣諸島に出動すると保証されているわけではない。ちっぽけな島の争奪戦の為に中国と一戦を交えるという判断を、米議会が行なうとはとても思えないのだ。
対北朝鮮へのアプローチを考えろ!
"北朝鮮問題"と一口に言うが、実は二つの敵対要因を米国が意図的にゴチャゴチャにしており、従米隷属国である日本はこれに巻き込まれているというのが、実際のところではないだろうか。
すなわち、一つは1953年に休戦協定を結んでいる南北朝鮮戦争であり、もう一つは、冷戦後に軍事予算が削減されて困った米国の軍産複合体が、2002年にブッシュ大統領に発表させた「悪の枢軸」である。この「悪の枢軸」とは、北朝鮮、イラン、イラクの三国で、このうちイラクは、ニセ情報を基にブッシュ大統領によって潰された。残るは北朝鮮、イランとの敵対である。
この二つの敵対は日本とは直接関係ないのだが、米国はこれを意図的に一緒くたにしており、従米隷属国日本はこれに乗せられて、大騒ぎしている。本来日本は、客観的な立場から発言できる立場であるはずなのだ。
多くの日本国民は知らないが、南北朝鮮休戦協定に南側を代表して調印した、朝鮮国連軍の後方司令部は横田基地内にある。休戦協定違反ともなれば日本の基地が利用出来る。だから米国は「悪の枢軸国」との戦いを「南北休戦協定違反」との戦いに併せようとしているのではないか、というのが私の理解である。
日本は、南北朝鮮戦争にも「悪の枢軸」との敵対関係にも直接の関係はないはずで、フィリピンやベトナムと同じ立場にあるはずだが、従米隷属国としては米国と同じ立場で北朝鮮と向き合わないといけないと思っているのであろう。
「北朝鮮は非常に特殊な国で、国際的に孤立している」という米国のプロパガンダを、日本はそのまま受け入れ、北朝鮮との国交を断絶しているが、アジアで北朝鮮と国交がないのは、韓国を例外とすれば、日本だけである。
日本政府は「拉致問題解決なければ、国交の回復なし」と言っているが、もし米国が国交を開いたとしても、日本は同じことを言い通すのだろうか。ついでに言っておくと、私は15年以上前から、経済制裁をすれば拉致問題が解決するという政策は、順番が逆ではないかと主張している。経済制裁をするなら、拉致被害者が全員帰国してからにすべきではないだろうか。
主権の回復こそ伝統・文化の顕現につながる!
北方領土問題、竹島問題、尖閣諸島問題がいつまでも片付かない原因の一つは、日本が従米隷属方針で、真の独立国でない為である。問題が片付かないほうが米国の国益に叶うと、それこそ忖度する人も多いと思われる。2012年4月16日に、石原都知事(当時)が、わざわざワシントンのヘリテージ財団まで行って、尖閣諸島を東京都で購入すると宣言した。米国は、これを上手く利用して、隣国との緊張が高まったからとオスプレイを売りつける理由にしたのではないか。実際、その後日本は、何千億円もの予算をかけて、FMS協定でオスプレイ17機を購入した。
いま述べてきた通り、我が国日本は、戦後70年以上も経過したのに、未だ真の独立国とは言えない状態にある。一日も早く、真の「主権回復」を成し遂げない限り、我が国の伝統・文化の顕現は達成されないのではないか。この一点に注力し、これを突破することが、今もっとも求められているのではないか?