イランとイラクの国境に近い、イランの南西部に、フーゼスタン州にアフワーズ市というところがあるが、ここはイランの石油地帯のひとつだ。フ-ゼスタン州の全体がそうなのだが、アフワーズ市の住民のほとんどは、スンニー派でありアラブ人だ。
住民のほとんどは石油産業に従事している。このことから、サダム・フセイン大統領はイランとの間で起こった、1980年~1988年のイランとイラクの戦争(イラン・イラク戦争)で、『フーゼスタンのアラブ人を、イランから解放す。』と叫んだのだ。
この戦争以来、イラン政府によって、フーゼスタン州のアラブ住民200万人は、敵性住民として差別され、監視下に置かれてきていたことを意味する。フーゼスタンの州都アフワーズ市では、最近でも水不足や物資不足、イラン通貨の大幅な下落で、抗議デモが起こっていたし、それに対するイラン政府の弾圧対応が、外部にも報じられていた。
そのアフワーズ市で土曜日に行われた、イラン・イラク戦争勝利記念の、軍事パレードに対し、4人のガンマンが銃撃を加え、イラン人の死者は民間人を含め24人にのぼり、負傷者は60人に達した。
誰がこの襲撃犯なのか、ということについては諸説ある。『アフワーズ国民抵抗運動』という組織が名乗りを上げたようだ。また、IS(ISIL)が犯行声明を出し、死者は24人ではなく29人だと訂正した。これはトルコのフッリエト紙が報じたものだ。同紙はどちらかといえば、中立的な立場で報道している、信頼性の高い新聞だ。
他方、襲撃犯側はと言うと、オートバイに乗ってやってきた襲撃犯は4人であり、そのうち3人が現場で射殺され、1人は重傷を負った後、逮捕されたということのようだ。従って、逮捕された人物を取り調べれば、犯行組織が何処なのかは、近く明らかになろうと見られていたが、しかし、事件後間も無く、この重傷を負ったテロリストは、死亡したようだ。
イラン政府は最初の段階では、実行犯はIS(ISIL)のメンバーではないか、と考えていたようだが、イランではそれ以外にも犯行に及ぶ可能性のある組織は少なくない。イランに敵対的な組織としてはクルド、バルーチ、トルコマン、アラブ・イラン人などの組織が上げられる。
クルドからはMKO(ムジャーヒデーン・ハルク)やKDPI,HDKA,PAJKが上げられようし、シスタン・バルチスタン州のバルーチのパキスタンからの独立闘争組織(ジュンドッラー=アッラーの兵士)とは、パキスタンとの国境地帯で、イラン軍と何度も戦闘を展開してきている。この組織はアメリカ、イスラエル、イギリスの情報部から、援助を受けている模様だ。
アラブ・イラン人とは、アフワ-ズのアラブ・オリジンの住民のことだ。いずれにしろ、イラン政府はサウジアラビアやアラブ首長国連邦、そしてアメリカのCIAが関与している、と見ているようだ。そしてイスラエルのモサドの名も上げている。
トルコマンはイラン北部の住民だ、彼らは現在のトルクメニスタン共和国から、大分前にイランへ移住していたか、もともと定住していた人達だ。これら以外にも、アゼルバイジャン人のイランからの、分離独立を標榜する、地下組織も存在しているのだ。イラン人の4分の一が、アゼルバイジャン人だと見られているので、この組織も無視できまい。
これだけ多くの異民族と、反政府組織が存在するということは、イランが歴史的に繁栄したからであろう。そのために周辺の異民族が入り、定住して今日に至るということであろう。それは陸続きの国家の弱点であり、利点でもあろう。
今回の襲撃事件ではもう一つ、興味深い組織名が出てきている。それはイラン政府が明らかにした、『アルアフワーズエ』という組織であり、名前から分かるように、彼らの組織はイラン南西部の、アフワーズの住民によって、組織されたものであろう。イラン政府はサウジアラビア政府がこの組織を、支援していると見ている。
述べるまでも無く、イランとサウジアラビアとの関係は、現在、極めて緊張した状態にあり、まさに一触即発状態にあるわけだから、サウジアラビアが支援する組織によって、今回のようなテロが起こっても、何の不思議もあるまい。
イラン政府は時間が経過するに従い、外国の関与から、サウジアラビアの関与に、傾いてきているのではないだろうか。イラン政府のザリーフ外相は『外国が支援し、資金を与え、武器を与え、サウジアラビアとアラブ首長国連邦で、軍事訓練を施した。』と発表している。
サウジアラビアがテロ事件の背後にいることが、明らかになれば、イランはサウジアラビアに対する、報復を考えよう。それがホルムズ海峡の封鎖に繋がるのか(最近行われたペルシャ湾での、イラン軍の訓練には、600艘の漁船レベルを含む艦船が集結したということだ)。
イランが考えておるのは、あるいはサウジアラビア領土への、直接的な軍事攻撃なのか、またその攻撃は、サウジアラビアの軍事基地が対象になるのか、石油施設になるのか、首都リヤドになるのかは分からない。
いずれにしろ、今回の襲撃事件をきっかけに、イランとサウジアラビアとは、極めて危険な状況に入ってきている、ということであろう。その流れの中で、今回のテロ事件発生は、革命防衛隊の影響力を、国内外で増して行くものと思われ、イラン国内では強硬な意見が、主流となって行こう。