パレスチナ自治政府のマハムード・アッバースが、パレスチナ内部の会議のなかで、口にした一言が、いま大きな問題になっている。それは彼がホロコーストは、ユダヤ人の強欲と傲慢が、ドイツ人などの反発を買って、起こったことだと言ったことが、原因だった。
ある意味では、それは彼なりには、正しい判断かもしれないが、相手はユダヤ人、しかもホロコーストはユダヤ人とイスラエルが手にする、プラチナ・カードなのだから、放置するわけは無い。たちまちにして、このマハムード・アバースの一言は、世界中に広がり、反発を生んでいる。なかでもイスラエルはもとより、アメリカやヨーロッパでの反発は、激しいようだ。
アメリカ国内からはマハムード・アッバースを、政治と国際舞台から、追放しろという声すらも、出ているのだ。そこで問題になるのは誰が考えても、大事になるこのマハムード・アッバース議長の発言を、誰が外部に漏らしたのかということだ。
パレスチナ自治政府内部には、実はイスラエルのスパイが、相当数いるということではないのか。そうでなければ、このようなデリケートな発言が、パレスチナの内部から外部に、漏れるはずが無いからだ。
スパイとは言わないまでも、デリケートな発言を耳にしたとき、人はそれを誰かに語りたくなるのは、極めて自然なことかもしれない。ましてや、長期政権となり、巨万の富を手にしているマハムード・アッバース議長に対する、ねたみと反発は、パレスチナ幹部の中にも、相当高まっていよう。
そこで問題は犯人探しよりも、誰がこれを何処まで押し上げて行き、マハムード・アッバース議長を権力の座から、引きずり下ろすかということだ。もちろんその主役はイスラエルであり、そのバックになっているアメリカであろう。
アメリカは既に、パレスチナ自治政府に対する援助を、相当額カットしている。それをより徹底するだけではなく、アラブ湾岸諸国からの援助も、締め付けるのではないか。そうなれば、パレスチナ自治政府はスタッフへの、賃金支払いも難しくなり、賃金支払い遅延、賃金カット、そして首切りが起ころう。それは自殺行為なのだが。
実はいまの段階で、ガザのパレスチナ公務員に対する、給与の支払いは、止まっているのだ。従って、ヨルダン川西岸地区の、いわば、パレスチナ自治政府のお膝元でも、同じようなことが起こるということは、充分に予測できよう。
マハムード・アッバースという老練な政治家の、歳ゆえの失言は、今後イスラエルとパレスチナとの関係を、大幅に変えるかもしれない。彼はもう少し早く権力を、次世代に委譲すべきであったのだろう。晩節を汚すという言葉が、いまの彼にはぴったりなのかもしれない。