アメリカという世界最大の国家、その偉大な国家の偉大な大統領であるトランプ氏は、歴史に記録される大きな間違いを犯した。それはある意味では、正しいのだろうが、結果は悪いことだけを、生み出そう。
それは、イスラエルの首都はエルサレムだ、と認めたことだ。それに伴い、アメリカ政府はテルアビブからエルサレムに、大使館を移転する方針だ。それが、結果としてイスラエルによる、エルサレム全域の支配を許し、イスラエル・パレスチナ問題は、永遠に解決されなくなってしまおう。
エルサレムは大分前に、PLOとイスラエル政府が合意した1967年戦争以前の国境画定以来、エルサレムを東西に分け、イスラエルは西エルサレムを、そしてパレスチナ側は東エルサレムを、自分たちの領域だとしてきた。
しかし、現実はこの合意とは全く異なり、イスラエルは近年、東エルサレムに居住する、パレスチナ人の追放を進めている。危険家屋の解体、土地の整備などを口実にして、パレスチナ人の住宅や店舗を破壊し続けており、東エルサレム周辺の土地には、次々とユダヤ人の入植地が、建設されてきている。
そうした現実を直視しないでというか、無知なままでトランプ大統領は、今回の決定を下したのだ。『パレスチナ人たちよ騒ぐな、お前たちにも国家を持たせてやる!』と言わんばかりの、傲慢な進め方だ。
トランプ大統領が考えているといわれる、パレスチナ国家の領土は、ヨルダン川西岸地区の多分、15~20パーセント程度ではないのか、しかも、その土地はずたずたに区切られており、パレスチナ国家が出来たとしても、イスラエルの領土を通過しなければ、相互にたどり着けないのだ。
故アラファト議長は『エルサレムに行こう、あそこは俺たちの国家の首都だ。』とパレスチナ人たちに訴え、励まし続けていた。その彼はもういない。いまそのアラファト議長の夢が、まさに夢で終わりそうなのだ。
今回のエルサレムをイスラエルの首都とする決定は、アラブ世界だけではなく、世界中のイスラム教徒と国家を、敵に回すことになった。アラブ連盟は緊急会議を開き、トルコのエルドアン大統領もOIC(イスラム諸国会議)の開催を、呼び掛けている。
意外なことに、イスラム世界の盟主と自認しているはずの、サウジアラビアの反応は不明確だ。多分に、ムハンマド・サルマン皇太子のアメリカやイスラエルとの関係改善が、影響しているのであろう。しかし、そのことはムハンマド・サルマン体制を、危険に追い込むのではないか。
パレスチナ人の蜂起(第三次インテファーだ)が始まるだろう、と警告する国もある。『テロリストにとって今回のトランプ大統領の決定は、好都合なものだ。』と評する専門家もいる。『戦うしか問題解決の方法は無い。』という乱暴な主張が表舞台に飛び出し、イスラム大衆の支持を集めるようになるからだ。
その過激な考え方はアラブ世界に限らず、アフリカでも東南アジアでも、中央アジアでも広がり、欧米のイスラム教徒の間にも広がって行こう。それはまさに世界大戦という様相であろう。それだけの危険の種を撒いたことを、トランプ大統領は分かっているのであろうか。忘れてならないことは、エルサレムはイスラム教徒だけの問題ではなく、キリスト教徒にとっても聖地であることから、ユダヤ人の独占に反発して当然の、大問題だということだ。
イランのハメネイ氏は『やがてパレスチナ人が勝利するだろう。』と語った。そうであろう。人類の歴史は、時間をかけながらも、正しい方向に向けて、動いているからだ。