背後』
あらゆる陰謀や混乱はアメリカのCIA、と言いたいところだが、今回のサウジアラビアの王族の大量逮捕は、そうばかりも言え無いようだ。アメリカと深い関係にある、多くの王子たちが逮捕者に、含まれているからだ。
大金持ちのワリード・ビン・タラール王子もその一人だし、元駐米大使だったバンダル・ビン・スルタン王子もそうだ。バンダル・ビン・スルタン王子がどれだけ、アメリカの要人に食い込んでいたかは、彼がバンダル・ブッシュと、呼ばれていたことからも分かろう。彼はアメリカ政府の要人たちと、深い関係にあったのだ。
ムハンマド・ビン・ナーイフ王子もそうだ。彼はCIAと深い協力関係にあった、と言われている。彼が皇太子の座から引き摺り下ろされ、いまは投獄の身なのだから、アメリカとしては極めて不愉快であろう。
しかも、今回の王族粛清では、ムハンマド・ビン・スルタン皇太子はサウジラビアの主要ファミリーを、敵に回すこととなったのだ。アブドッラ-国王のファミリ-、ムハンマド・ビン・ナーイフ元皇太子ファミリー、ファハド元国王ファミリーなどだ。あるいはもっと大きな区切りで言うと、スデイリ族シャンマル族を敵に回した、ということか。
述べるまでも無く、今回の宮廷クーデターともいえる、多数の王族の逮捕劇は、サウジアラビアの王族内権力闘争であり、現在のムハンマド・ビン・サルマン皇太子の立場を強化し、国王にさせるためのものであろう。そのうえで極めて重要なワッハーブ派との関係を、悪化させてもいる。彼は穏健イスラムに変える、と言い出しているからだ。
しかし、若いムハンマド・ビン・サルマン皇太子がやってきた政策は、どれもが失敗している模様だ。イエメン戦争は終りを迎えられないで続いており、それに費やされる戦費は、巨額に上ろう。
アカバ湾に近い地域を開発し、一大都市を造るという計画には、5000億ドルの予算が組まれており、ドバイをまねしたものでろう、といわれているが、それには人材が足りず、成功させうるためには、大量の外人を受け入れなければならなくなる、ということで、成功の可能性よりも、失敗の可能性のほうが大きいだろう、と言われている。
アラムコに対する改変も、サウジアラビア国内外で評判が悪い。また、カタールに対して始めた、封鎖と弾圧政策は、アラブ湾岸諸国のなかでは、決して評判が良く無く、非難の声の方が大きいだろう。
そのような非難の声を、押さえ込まなくては、ムハンマド・ビン・スルタン皇太子の国王への道は、閉ざされてしまう、今回の粛清劇は、そのためのものであったろう。だが、それは両刃の剣であり、ムハンマド・ビン・スルタン皇太子の立場を、危険に追い込むことも、考慮しなければなるまい。
サウジアラビアの国軍などのなかには、反発の動きが既に始まっている、と言われている。ある王子はイエメン国境で、飛行機が落下して死亡したが、彼の場合は飛行機事故では無く、撃墜だったのではないか、と言われている。
そうであるとすれば、いま逮捕されている王子たちも、処刑される危険性がある、ということだ。彼らに対する罪状は、いまのところ汚職が主だが、それが審理の段階で国家反逆罪に問われるように、なるかもしれない。そうなれば容赦なく処刑、ということになろう。
逮捕されている王子たちも、それは考えていようから、何とか失地挽回、窮地からの脱出を図ろうと、あらゆる手段を用いているものと思われる。そして、アメリカやイギリスがこの問題で、どう動いてくるのか。両国はいまのところ、ダンマリを決め込んでいるようだが。あるいは今回の宮廷クーデターを機に、アメリカやイギリスはサウジアラビアの王家を、大改造することを、考えているのかもしれない。