北イラクのクルド自治区で、イラクからの分離独立を目指す、住民投票が行われ、その結果は92パーセント以上が、賛成票であったことは、何度か書いた。問題はその後のクルドが、どうなるのかということだ。
トルコやイラン、イラクの立場は、このクルドの動きを潰す、という強硬なものだ。既に、イラク政府はクルド地区の空港への、国際便の発着を止めている。またクルド地区に繋がる陸路も、閉鎖すると言っている。そのことは結果的に、クルド地区を陸の孤島にしてしまう、ということに他ならない。
こうなってしまえば、クルド地区で行われた住民投票の結果、つまり、クルドの独立への夢は、費えてしまうということなのだが、その通りに推移するのであろうか。どうもそれでは、クルドの代表者であるバルザーニ議長が、あまりにも単純で、感情に流された、判断をしたということになってしまう。
バルザーニ議長は父親の代から、クルド地区の分離独立を目指して、イラク政府に抵抗してきた、バリバリの抵抗運動ファミリーだ。従って、話はそう単純ではなかろうと思う。
トルコ軍とイラク軍は、クルドの国境近くで合同軍事演習などをして、威圧しているが、その効果はあるのだろうか。また、イランはクルド地区への石油製品の輸出を止める、と発表しているが、それは戦闘車両を動かせなくなる、ということであろう。
エルドアンは『バルザーニはやがてとんでもない、付けを払わせられる。』と脅してもいる。つまり、分離独立というクルド人の夢は、彼らを破滅に導く、と言っているわけだ。
それでは空路は別にして、陸路も完全に閉鎖され、物資がクルド地区には届かなくなる、ということについては、どうであろうか。トルコのユルドルム首相は『クルドの庶民を、困らせることは無い。』と語っているが、それはトルコから今後も、食料品を始めとする物資は、届くということであろう。
トルコはいまロシアの経済制裁で、農産品業者が大きなダメージを受けており、これにクルド地区への輸出も重なれば、相当数の業者が倒産するハメになろう。その事は、トルコ国内でクルドへの締め付けに、反対する動きが起こりうる、ということだ。
さて、それではクルド地区の経済を支える、石油の輸出についてはどうであろうか。北イラクのクルド地区に隣接する国(地域)には、トルコ、イラン、イラクだけではなく、シリアのクルド地区もあるのだ。
シリアのクルドの戦闘には、イラクのクルドのペシュメルガ軍が、応分の協力を送っていた。しかも、いまではシリア北部のおおよその部分は、クルド人の支配下にある。
そうであるならば、イラクのクルド地域で生産された石油は、シリアのクルド地区を通って、欧米市場に向かうということが、起こりうるということだ。また、イスラエルもイラク・クルドの石油の、大口購入者なのだ。
今回のイラク・クルドの動きについては、イラン、トルコがイスラエルの関与を、非難している。確かにそうであろう。独立投票の後、イラクのクルド地区ではイスラエルの国旗が、振られたのだ。イラクのクルドとイスラエルとの関係は古く、1960年代に始まっているのだ。
イスラエルはイラクとシリアのクルドを、結びつけることにより、将来的にはこの二地区に、トルコのクルド地区を加えて、一つにして独立させ、石油はトルコを経由せずに、欧米に輸出できる体制にする気ではないのか。
アメリカは大分前から、トルコのエルドアン大統領を毛嫌いしており、トルコの5分の1の領土を、新生のクルド国家に加える、という考えを持った人もいるのだ。思うに、今回のイラク・クルドの分離独立への動きは、その裏にイスラエルとアメリカの、大構想があったために、進められたのではないか、ということだ。