NO4718 10月18日 『クルドは戦わずに何故キルクークを手放したのか』

2017年10月18日

 

 クルドの軍隊であるペシュメルガは、最初にシリアのコバネでの戦いで、圧倒的な強さと勇敢さを示し、それまでシリア軍もイラク軍も勝てなかった、ISに勝利している。

 その勇敢なクルドが、何故今回はキルクークでの、イラク軍との緊張のなかで、戦わずにキルクークをイラク軍に、明け渡したのであろうか。バルザーニ議長の頭のなかには、どんな考えがあったのであろうか。

 そして、そもそもクルド自治政府は、何故多くの国々が反対するなかで、強引に住民投票をして、クルド地区のイラクからの分離独立を、問うたのであろうか。バルザーニ議長は今回の、キルクークからのペシュメルガ軍引き上げの後『住民投票の結果をゴミ箱に捨てるつもりは無い。』と語っている。

 つまり、ペシュメルガ軍がキルクークから、戦わずにして撤収したのは、計算づくだったということであろう。それは単純に考えると、イラクの一大産油地であるキルクークで、もしクルドのペシュメルガ軍と、イラク軍が戦闘することになれば、多くの死傷者を出すばかりではなく、油田地帯の施設も油井も、破壊されたことであろう。それでは、その後の復旧までに膨大な資金と、時間を必要とすることになろう。

 クルド自治政府はキルクークでの、イラク軍とのにらみあいのなかで、ペシュメルガの持つ装備と規模を、十分にイラク軍側に示し、知らしめたことであろう。それにもかかわらず、バルザーニ議長がペシュメルガ軍を、撤収させたということは、その後に政治交渉をしろとイラク政府に、メッセージを送ったということであろう。

 いったん戦闘が起こらなくなったいまでは、ゆっくりとバルザーニ議長はイラク政府との政治交渉開始に、備えることが出来るようになったということだ。そして、その政治交渉を早急に始めろという洋弓は、周辺諸国や欧米から起こってこよう。

 この政治交渉については、アメリカは現状では中立の立場を採る、と言っているが、裏ではクルド自治政府を支援して、有利な合意を生むように、イラク政府に働きかけることになろうし、ヨーロッパ諸国も然りであろう。

 トルコとクルド自治政府との関係は良好だったし、クルド自治政府との間には、経済的メリットも石油の輸入や企業進出で大きい。従って、トルコ政府は自国の経済利益を、最優先して動くことになろうから、クルド自治政府の敵にはなるまい。

 イラク政府はクルド地域が、イラクから分離独立することは、国家としての面子を失うことになり許せまい。またそれを許せば、他のアラブ諸国でも、分離独立の動きが激しくなり、せっかく安定化に向かい始めた状態が、元の戦闘状態に戻ってしまう危険性があろう。そうなると、イラク政府の選択肢は、クルド地域の石油利益をどう配分するのかということと、イラクはクルド地域を含む連邦国家にする、というあたりが落としどころではないのか。