イラクからの分離独立をめぐり、北イラクのクルド自地政府と、イラク中央政府が対立し、この中でキルクークの領有をめぐり、両者の関係は悪化の一途を、たどっている。それは述べるまでも無く、キルクークがイラクのなかで、最も大きな石油地帯の、一つだからだ。
クルド自治政府は自軍のペシュメルガを、キルクーク地域に送り込み、死守する構えのようだが、これにトルコのクルドのテロリスト組織PKK(クルド労働党)が、支援に入ったようだ。
キルクークの領有問題については種々あるが、サダム体制下でキルクークをアラブ・イラクの地域にするために、サッダーム・フセイン大統領はアラブ人を移住させ、クルド人を追放し、キルクークをアラブの地域にすることを、狙ったといわれている。
このため、多くのクルド人がキルクークから追放され、住民の大半がアラブ人に変えられた、という経緯がある。それはあたかも、イスラエルがパレスチナ人を追放して、イスラエルの土地だ、としたことに似ている。
当然のことながら、それはクルド人の怒りを呼び、サダム体制崩壊後には、その逆の現象が起こり、クルドのペシュメルガの部隊が、今度はアラブ人を追放し、クルド人をキルクークに帰還させる、という現象が起こっていた。
キルクークをクルド自治政府が支配するのか、イラク中央政府が支配するのかで、今後の状況は一変することになる。クルド自治政府が支配下に置けば、クルド自治政府は経済的な問題が無くなり、豊かな国家として独立し、兵器も装備し、イラク中央政府は手を、出し難くなる危険性があろう。
もし、キルクークをイラク中央政府が支配すれば、その逆の状況が生まれるということであり、クルド自治政府は独立が困難となり、自治権を付与され、イラク中央政府がくれる石油収入の分け前を、受け取るだけとなろう。
こうした事情から、今回のキルクークをめぐる戦いには、トルコのPKKが参戦する形になったのだ。それは、PKKがこれまで、クルド自治政府から、同地域のカンデール山に拠点を持ち、留まることを許可され、トルコ軍の攻撃から守られていた、ということがあるからだ。
つまり、単純な言い方をすれば、トルコのPKKはクルド自治政府の危機にあって、援軍を送ることで、これまでの好意に対して、お礼をしているということだ。
しかし、話はそれだけではあるまい。いまクルド人たちの頭の中にあるのは、トルコのクルドもイラクのクルドも、クルド国家の樹立であり、それにはイラク北部だけではなく、トルコの東部の地域も、包含されるということであろう。
こう予測するのは、私だけではあるまい。当然のこととして、トルコ政府も同じような懸念を、抱いているものと思われる。そうなると、クルド自治政府とイラク政府による、キルクーク支配をめぐる戦闘が、クルド自治政府のペシュメルガ軍と、イラク軍の間で起これば、トルコ軍が介入する可能性が極めて高くなろう。