北イラクのクルド自治政府が実施した、独立への住民投票の結果は、予想通りだった。92~93パーセントの住民が、分離独立を支持する票を投じた。それはそうであろう、3000万人とも4000万人とも言われるクルド人が、自分たちの国を持てずに長い苦難の歴史を、記して来たのだから。
当然この投票結果は、クルド住民を歓喜させたのだが、問題はこれから始まるということだ。クルド自治政府が断行した投票には、イラクもイランもトルコも大反対だった。従ってこれらの国々が、クルド自治政府に圧力を掛けてくることになる。
その圧力とは、クルド自治区のエルビルにある、国際空港を閉鎖することに始まる。イラク中央政府は3日間の猶予を与えたが、それは29日までであり、この日以後はエルビル空港への国際便の発着は、全て止まることになった。
加えて陸路の国境も、閉鎖されることになっているが、これについては、イラク中央政府とクルド自治政府との間で、話がまとまっていないようだ、クルド自治政府が国境警備の、イラク中央政府への権限引き渡しを、拒否しているのだ。
トルコ政府はクルド自治政府の締め上げに、イラク軍と協力して、軍事的な圧力を掛け、国境付近で合同軍事演習をしているが、それよりも応えるのは、トルコ経由のクルド地区からの石油輸出の、パイプ・ラインを止めることであろう。
クルド地区のキルクークには、イラクのなかで最大規模の、石油埋蔵量を誇る油田があるが、そこの石油が輸出できなくなれば、クルド自治政府はお手上げであろう。ただし、これはトルコにとっても、両刃の剣なのだ。締め付ければそれまで、安価に買っていたクルド自治区の石油は、トルコに入って来なくなり、トルコ経済に悪影響を与えるからだ。
アメリカもこのクルド地区の分離独立には、反対しているが、このことについて、クルド自治政府はアメリカがイラク北部に、新しい軍事基地を建設している、と揺さぶりを駆けている。それは、多分にイランに対する、警告のメッセージであろう。イランもスンニー派のイマームをして、イラクの分離には反対している旨を、伝えている。
トルコはイラクのクルド自治政府は、投票後に『トルコがどれだけ怒っているかを、知ったであろう。それまでは甘い考えであった。」と語り、これから締め付けを強化し、結果的にクルド自治政府は、立ち行かなくなる、と警告している。
トルコのエルドアン大統領は『バルザーニ大統領は投票を実施することで、自身を火中に投げやった。』つまり自殺行為をした、と非難している。確かにそうであろう。いかな勇敢なクルド人とは言え、トルコ、イラン、イラクを敵に回して、戦争をすることは、不可能であろう。時間をかけて締め付けられるか、あるいは周辺諸国の締め付けと、脅しに耐え抜くのか、これからそれが始まろう。
もちろん、交渉の余地が全く無いわけではない、イラク政府は高度な自治を保障することで、この問題を解決するかもしれない。そうあって欲しいものだ。