シリア政府とクルドのPYDとの間で、シリア北部の石油収入の分割が、合意された。これは大ニュースであろう。シリア政府とPYDは敵対関係にあったものが、富を分割することになったのだから、状況は180度変化した、というとであろう。
この合意の裏には、アメリカ政府が関与していたものと思われる。つまり、この石油収入をめぐる合意は、アメリカ政府がシリアのアサド政府を、認めたということであり、シリアの内戦はほぼ終結した、と理解すべきであろう。
同時に、それはシリアにおけるIS(ISIL)の終焉を、意味していよう。伝わってくる情報によれば、IS(ISIL)の首都であるラッカは、PYDの戦闘部門である、YPGが主体のSDFによって、半分以上が解放された、ということだ。
そのYPGは現在、シリアのマンビジュ、アフリン、リファアトアレッポなどを支配している。そのなかには、石油地帯のあるハサカも含まれている。その石油地帯は現在3か所が稼働しており、6か所は稼働出来ない状態にあるが、アサド体制はPYDと石油収入を分割するとともに、そこの従業員に対する給与の支払いも、約束した。
2011年以来始まったシリア内戦の前には、シリアは40万バーレル・日の石油を、生産していたのだ。その石油収入はシリア国家の収入の、4分の1を占めていた。シリアが平和な状態になり、欧米との関係も改善すれば、40万バーレル・日の生産が回復されるとともに、それ以上の生産が期待されよう。
現在、350ほどの油井から3~35000バーレルの石油が生産されており、アサド政府側はその収入の65パーセントを、得ることになり、PYD側には20パーセントが分けられる。残りの15パーセントは地域の部族に、配分されることが決まった。部族側は油井のガードに、責任を持つことが決まっている。
問題はこの合意が生まれた結果、トルコが激怒していることだ。トルコに言わせれば、PYDはトルコの反政府クルド組織である、PKK(クルド労働党)と30年以上にもわたり戦闘を繰り返し、4万人以上の犠牲を出している。
そのPKKと連携するPYDやYPGについて、トルコ政府はテロリストだと非難しているのだ。欧米もPKKについては、テロリストと認めてきていたのだが、今回の合意はこれを、覆すものとなろう。
述べるまでもなく、それはトルコとアメリカとの関係を、悪化させるものであり、既に、アメリカはトルコのエルドアン体制を、否定しているという事であろう。ラッカでの作戦でも、トルコが主張したYPG排除の主張は、アメリカに否定され、アメリカはYPGを中心とする、SDFとの連携でこの作戦を行っている。
しかも、アメリカは大量の武器を、YPGに提供してもいるのだ。トルコはNATOからも浮き上がった状態にあり、今後はロシアと連携するのであろうか。その時は完全にトルコは、西側から外れることを意味する。
最近スエーデンなどヨーロッパ諸国から、トルコのEU加盟を認めることはない、という強硬な意見が飛び出してきてもいる。ドイツもトルコのインジルリク空軍基地から撤収し、アメリカも早晩撤収しよう。そうなれば、トルコの国際的地位は大幅に、下がるということだ。