* 私がまだ40代の頃に、初めてイスラエルに入り、エルサレムを訪れた。当時、アラブ研究者の間では、敵国イスラエルを訪問するのは、裏切り行為のように見られる傾向があり、それまで何十回とカイロを訪問していたのだが、足が向かわなかったのだ。*
暑い7月だったと思うが、旧エルサレムを訪問し、城壁の上に出来ている通路を、一回りしエルサレム周辺を眺めた。確かロシア教会などもそこからは、見下ろせたと思う。*
そうして歩いていていると、なんて美しい所だろう、なんて清らかで静かなところだろう、と感じたのだが、次の瞬間突然涙が流れ出し、止まらなくなった。エルサレムは悲しみの街でもあり、歴史上で起こった悲惨な出来事が、その地に浸み込んでいたのであろう。*
そのためか、エルサレムではこれまで、何度も武力衝突が起こり、何千人何万人もの人達が、犠牲になっている。2015年から数えるだけでも、300人のパレスチナ人が、イスラエルの警察や軍隊によって、殺害されているということだ。*
最近始まったエルサレム暴動でも、既に5人が殺害され、アクサ・モスクのイマームであるシェイク・イクリム・サブリ氏も、犠牲になっている。それとあわせ、30歳のラファト・アルヘブラーウイ氏も殺された。*
イスラエル政府はエルサレムの、アクサ・モスクへの立ち入りを禁止し、パレスチナ人がアクサ・モスク内で、礼拝できないようにしたことが、暴動の原因だった。以来、エルサレムのパレスチナ人居住区は、閉鎖状態にあり、厳しいイスラエル警察と軍による、監視巡回が続いている。*
加えて、エルサレム周辺のパレスチナ人居住区に対しても、イスラエル軍は家屋への、立ち入り検査を行っており、銃器などの摘発を行っている。これではパレスチナ側が、怒り心頭に達しても、無理はあるまい。*
力にはあくまでも力で応え、相手を叩き潰すのがイスラエルのやり方だが、それはパレスチナ側も同じであり、積年の恨みがちょっとしたきっかけで、表面化し感情は爆発するのだ。*
暑い夏のイスラエルは、通常に比べて暴発が起こりやすい。それはパレスチナ人の死者が出る、ということでもある。もちろん、数こそ少ないが、イスラエル人の側にも、犠牲者は出るのだ。*
誰もこの悲惨を止めることは出来ないのか。パレスチナ自治政府のアッバース議長は、自分と家族のために懐を肥やすことに、専念している。それがパレスチナ問題への、世界の同情を薄めていることを、彼は知らないのか。*