中国の最西部に、新疆ウイグル地区がある。 ここは住民のほとんどがムスリムだったのだが、最近では中国政府が進める、漢民族の大量移住で、人口構成が変わってきている。
そして、中国政府は新疆ウイグル地区で、イスラム的なライフ・スタイルを、禁止する方策に出ている。例えば、スカーフを女性が冠ることや、男性があご髭を伸ばすことは、禁じられているようだ。
街中では、イスラム教徒が嫌う豚肉が売られ、中国政府は時折この豚肉を、ムスリムに強制して食べさせる、といったこともあるようだ。イスラム教徒の義務である礼拝についても、もちろん厳しい禁止措置が、取られている。
こうしたことから、新疆ウイグル住民のなかには不満が募り、これまで何度も抗議デモや、暴動が起こっている。処が彼らには、これといった武器は無く、せいぜいナイフを使った、テロ程度であった。
しかし、こうした状況は一変した。シリアやイラクでIS(ISIL)が、過激な活動を始め、世界のムスリムに対して、ジハードへの参加を呼び掛けたところ、東南アジアのイスラム諸国や、西アジア、アフリカのムスリムも、このIS(ISIL)の呼びかけに、賛同し始めたのだ。
私が新疆ウイグルのムスリムの動きを知ったのは、シリアで内戦が勃発して間も無い、2012年ごろであったろうか。イラクやシリアでIS(ISIL)が動き始めてから、比較的始めの段階でシリアの戦線に、ウイグル人が登場したのだ。彼らは始めのうちはアルカーイダの系列の、ヌスラ組織に加わっていた。
そして、その後IS(ISIL)の宣伝サイトを通じて、多くの新疆ウイグル人が、家族を連れてIS(ISIL)側に加わり、子供たちまでも戦闘訓練とイスラム教育を受けていることが、誇らしげに報じられていた。
そうした経緯で、新疆ウイグル人のムスリムは、多数がIS(ISIL)の戦列に加わるようになり、今では5000人が戦闘に参加しているということだ。このことは、シリアの駐中国大使が、中国政府側に語ったことにより、明らかになったものだ。
彼らウイグル人は東南アジアの、マレーシアやインドネシアを経由し、トルコに入り、シリアやイラクの戦線に辿りついているのだ。以前にはトルコのパスポートが、中国国内で相当数出回っており、彼らはそのパスポートを持ち、トルコ人として中国から、出国していたということだ。そのトルコ・パスポートを中国国内でばらまいたのは、トルコ政府の特務機関によるのか、金もうけのための、ブローカーによる非合法ビジネス、であったのかは不明だ。
ウイグル人の言語はトルコ語にほとんど同じ言語であり、少しトレーニングすれば、トルコの一地方の人のような感じになるのだ。元々、ウイグル人は中央アジア一帯に広がる、トルコ系の民族のなかの、一番東側に居住する民族なのだ。つまりトルコとは同族なのだ。
このため、トルコ国内にはウイグルから移り住んだ(亡命した)、ウイグル人が20万人以上いる、と言われている。私もその一部の人たちと、イスタンブールで会ったことがある。
トルコ政府は一方においては、同族のウイグル人を支援しなければならない、と考えており、将来、このことが理由で中国政府との間に、軋轢を生むかもしれない。他方、シリア政府にしてみれば、同じムスリムではあるが、同族ではないことから、情け容赦なく対応するであろう。
シリア政府はそれを中国との協力で、進めていきたいという事であろう。しかし、それにしてもシリアやイラクで、戦闘訓練を積んだウイグル人が、新疆ウイグル地区に戻ったとき、彼らが武力闘争を展開することは、容易に予測できる。中国にとって民族問題は、大きな課題になって行くという事だ。