アメリカ政府はトランプ大統領の許可の下、正式に重火器をクルドのYPGに供与することを決定した。これはトルコにとっては、衝撃的な出来事であろう。述べるまでもなく、トルコにとってクルドのYPGは仇敵であり、トルコの反政府クルド・グループPKKの盟友だからだ。
アメリカがそのYPGに、重火器を供与するという事は、トルコ側の防衛にとっては、極めて厳しい措置であろう。アメリカ政府はYPGに対して、シリアのラッカにいるIS(ISIL)を打倒するために、軽機関銃、重機関銃、弾薬、ブルド-ザー、建設機材、武器搭載車両などを、提供することになった。
このことに加え、アメリカはトルコが条件を付けていた、ラッカのIS(ISIL)打倒作戦に、トルコ軍が参加することを許可した。だが、トルコが主張していた、クルド部隊と合同で戦うことは拒否する、という立場を完全に、無視するものであった。
問題はそればかりではない。アメリカの立案した作戦で、トルコが一緒に戦うことになれば、トルコはクルド部隊に対する、攻撃ができなくなる。これまで行っていたような、クルド部隊に対する空爆作戦は、不可能になるということだ。
クルド部隊に大量の武器が、アメリカによって提供され、ますます力をつけていく脇で、トルコはそれを傍観するしかない、ということになる。それでもトルコ軍は、アメリカの許可が下りたことで、ラッカ作戦に参戦することになろう。
もし、トルコがラッカ作戦に参加しない、という事になれば、トルコはシリア問題から完全に外され、将来、トルコはシリア領土の一部を、奪還することも、不可能になろう。
アメリカの今回の決定は、トルコの国際社会での面子を、完全に無視するものであった、と言えよう。『やりたいなら入れてやる、やりたくないなら参戦するな、文句は言わせない。』というトランプ式のこわもて対応、という事であろう。
こうしたアメリカの決定のために、トルコは今後、極めて危険な状況に、追い込まれていくのではないか。シリアのクルドYPGが軍事力を増強させ、トルコ国内のPKKと連携していけば、トルコ側はその対応に、苦しむことになろう。
加えて、ラッカを始め、シリアやイラクにいた、IS(ISIL)の戦闘員多数が、トルコに逃亡して来ることになり、IS(ISIL)の戦闘員とクルドの戦闘員が、トルコを舞台に戦闘を展開することは、必定であろう。
アメリカはこうした、近い将来に起こるであろう、トルコの国内混乱を、予測していないはずがない。そうであるとすれば、アメリカがいまクルドに対して、執っている対応は、シリア問題やIS(ISIL)問題ばかりではなく、エルドアン体制とトルコへの、揺さぶりではないか、と思えるのだが、真相はどうなのであろうか。