『バグダッド・グリーン・ゾーンの戦い』

2017年2月13日

 

 イラクの首都に、グリーンゾーンと呼ばれる地域がある。ここはアメリカ軍が多数駐留する頃に、造られた地域だったと思うが、今ではイラク政府の官庁ビルや、外国の大使館、国際機関の事務所に加え、要人の居住区になっている。

 当然、このグリーンゾーン内部は住環境が、バグダッドの他の地域に比べて、格段に恵まれている、ということであろうし、治安もいい状態にある。従ってバグダッドの一般市民にしてみれば、羨望の眼差しで見られる地域、ということになる。

 そうしたことから、市民に不満が高まると、このグリーンゾーン地域に対する、抗議デモが行われている。その意味では必ずしも、安全地帯とも言い切れないのかもしれない。

 今回はシーア派の巨頭、サドル師が扇動するデモが、グリーンゾーン地域に向かって行われた。もちろん、地域そのものには人格があるわけではないから、グリーンゾーンに対するデモということは、政府に対する抗議のデモであったわけだ。

 イラクはいまIS(ISIL)の占領と暴力支配の時期が、終わろうとしており、国内の平和が直ぐそこに、迫っているはずだ。それにもかかわらず、グリーンゾーンへのデモが起こり、しかも死傷者が出ているということは、何故であろうか。

 グリーンゾーンへのデモで7人が殺害され、174人の負傷者も出ているということだ。警官もこのデモの中で1人が殉死している。

 今回のサドル派の怒りは、主に元首相のマリキー氏に、向けられたものであり、カチューシャ・ロケット弾に加え、銃器やナイフも持ち込まれたようだ。従って、警察側も当然、それを阻止できるだけの装備が必要であり、死傷者が多数出たということであろう。

 こうした大規模な衝突が起こったということは、言葉を変えて言えば、イラクがIS(ISIL)との戦いの時期から、次の段階に入った、ということではないのか。つまり、今回のグリーンゾーンに対するデモと衝突は、次の段階でサドル派がどのような権益を、得ることが出来るのかにかかっている、ということではないか。

 同じような状態が今リビアでも起こっており、リビアにはいま三つの政府が鼎立状態で存在している。アラブ世界での政治的な衝突の裏には、常に権力闘争があり、その権力闘争の裏にはいつも利益が存在する。言ってみれば、グリーンゾーンに対するデモは、経済行為の一種だ、ということではないのか。