パレスチナ自治政府のアッバース議長が、バチカンを訪問し、法王と会談した。その中心議題は、アメリカ大使館のテルアビブから、エルサレムへの移転阻止にあった。
パレスチナ側の主張では、エルサレムは永遠のパレスチナの首都であり、イスラエルの首都ではない、というものだった。このパレスチナの考え方は、基本的にエルサレムを東西に2分して、イスラエルと将来できるかもしれない、パレスチナ国家の首都にする、という国際的な認識を否定するものだ。
アメリカにトランプという大統領が誕生したが、彼は娘がユダヤ人と結婚していることもあり、イスラエルびいきだと見られている。そのトランプ政権が出来ることで、俄然アメリカ大使館のテルアビブから、エルサレムへの移転の話が、現実化しつつある。
あわてたのはマハムード・アッバース議長だ。そうなってしまったら、これまでのパレスチナ革命のうたい文句は、実現へのめどが全く立たなくなってしまい、パレスチナ人はパレスチナ自治政府の言うことも、マハムード・アッバース議長の言葉も、信用しなくなる。
パレスチナの自治政府もPLOも、ファタハも皆これまで、長い歴史の中で、パレスチナ人に幻想を売り込んで、権力を維持してきているのだ。それが何より証拠には、アラファト議長が溜め込んだ金は幾らだったのか。
マハムード・アッバース議長の溜め込んでいる金は幾らか、彼の息子の持っている金は幾らかを考えれば分かろう。そして、パレスチナの幹部たちの財産を考えてみれば、大衆のことなど全く、気にかけていないことが分かろう。
マハムード・アッバース議長はバチカンの法王に泣きつき、ロシアのプーチン大統領にも泣きついた。そして『もし移転となれば、極めて危険な事態に陥る。』と脅しをかけてもいる。
そうだろうか、パレスチナ人はエルサレム移転で、本格的な武力闘争を始めるだろうか。世界のムスリムはそれを支持して立ち上がるだろうか。ユダヤ人はそのため、世界中でテロの対象になるのだろうか、、。そのいずれも起こらないだろうと思う。
ムスリム世界はそれぞれが、混迷のなかにあり、自分の問題で忙しいのだ。パレスチナのために流血の闘争などしてはくれまい。イスラム原理主義のアルカーイダを母体とするヌスラ、イスラム・カリフ制を謳うIS(ISIL)ですら、イスラエルに対する攻撃は、未だに始めていない。
シリアやイラクからヨーロッパに逃れた難民は、いま食糧も無く、暖かい家もない中で、飢えと寒さで死んでいるのだ。アフリカからの難民たちは、地中海の冬の海に沈んでいるのだ。それに比べればパレスチナ人のおかれている状況はまさに天国であろう。
それでは肝心のパレスチナ人は、どう大使館の移転問題に反応するかといえば、彼らはあまりにも長い間世界の善意に飼い慣らされ牙を抜かれてしまっている。突然、パレスチナ人が一斉蜂起するような、暴力闘争を始めるとは思えない。もちろん、ハマースや過激派の一部、ヨルダン川西岸の反マハムード・アッバース派のなかからは、ある程度の抵抗は起ころう。
マハムード・アッバース議長が今回エルサレム移転に噛み付いたのは、世界の関心を、パレスチナ問題に再度呼び戻し、世界に訴えて援助金を集めるためであろう。