トルコの大統領府スポークスマンの、イブラヒム・カルン氏はアメリカが、トルコに協力的でないことに不満を述べ、場合によっては、アメリカ空軍に対して、インジルリク空軍基地を閉鎖する(使わせない)と語った。
この発言は極めて厳しいものだが、トルコ側にしてみれば無理からぬ部分もある。アメリカはこれまで、中東戦略上トルコのインジルリク空軍基地が、位置的に優位であることから、さんざん利用してきていた。
特に、イラクやシリアへの攻撃は、インジルリク空軍基地から、間断なく無人機(ドローン)を飛ばして、行われてきている。そのドローンは日本で作られているような、小さいものではなく、戦闘機と同じようなサイズであり、しかも、武器弾薬を搭載できる、規模のものなのだ。
イブラヒム・カルン氏は『トルコはISに対して、通路を提供してきたわけではないし、IS(ISIL)とは闘ってきている。もし、アメリカがシリアの反体制派(FSA)を、初めから支援していれば、今のような弱体ではなかったし、状況も相当変わっていたはずだ。』と語った。
トルコはイラク政府とも、北イラクのクルド自治政府とも、良好な関係を維持し、協力して対応してきている、とも語っている。それは大筋正しい主張であろう。しかし、イラクのアバデイ首相は、トルコのイラクに対する領土奪取の野心に、懸念を抱いていることも事実だ。
トルコにとってアメリカに、不満を抱いている最大の理由は、アメリカがクルドのPYDやYPGに対して、武器を提供し、支援していることだ。アメリカに言わせれば、彼らが最も勇敢に戦ってくれる、友軍なのだから当然、という論理であろう。
トルコ側にしてみればPYDやYPGはトルコのクルド・テロ組織PKKと連帯している組織であり、テロ組織だという判断になる。そして、それは将来、トルコと本格的な戦闘を交え、トルコから南東部のクルド地帯を、分裂させる危険性が高いのだ。
この目的で、PKKはこれまで30年以上も、トルコと敵対し、テロ活動を展開してきている。つまり、トルコにとってクルドは明確な敵であり、アメリカにとっては戦友ということになるのだ。
そのためトルコが立てた、ユーフラテス川を挟むユーフラテス盾作戦での、クルドの追放作戦に対し、アメリカは全く協力していないのだ。トルコは再三にわたって、クルドを空爆して欲しい、とアメリカに対し訴えてきていたが、アメリカはそれを受け入れなかった。
アメリカにとって、トルコのインジルリク空軍基地は、値段の付けようもないほど、重要な基地だと言われている。それを失うようなことになってはアメリカの中東戦略が、がらりと変わり、脆弱なものとなろう。(イラクに空軍基地を持つ考えが、アメリカにはある。)
他方、トルコにしてみれば、このことで、アメリカとの関係が切れることは、やはり大きなリスクとなろう。そのためイブラヒム・カルン氏はトランプ氏が大統領に就任した後の、トルコに対する対応変化を、待ちたいと語っている。
トルコはアメリカに対し、防空協力と情報協力を期待しているのだ。エルドアン大統領もアメリカへの不満を漏らしている。『アメリカはIS(ISIL)の打倒や、他のテロリスト掃討を考えているのか、あるいは、単に中東地域を流血の惨事の場に、したいのか不明だ。』と語っている。
確かに、トルコが一番成功させたかったマンジブ作戦で、アメリカは全く協力しないばかりか、逆にトルコの敵側のPKKと連携する、PYDやYPGに武器を提供していたのだ。
トランプはトルコに対して、どう対応するのだろうか。あるいはこの問題がこじれた場合、アメリカはトルコの軍に対して、クーデターをそそのかすかもしれない。エルドアン大統領にとっては、まさに危機的状況であろう。