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トルコのエルドアン大統領は、セーブル条約は認めるが、ローザンヌ条約は認めない、と言い出してしばらく経つ。当初、エルドアン大統領がそう言ったのは、ローザンヌ条約を結んだ、ケマル・アタチュルク初代大統領に対する、コンプレックスからだろう、と思っていたが、そうではないようだ。
ケマル・アタチュルク初代大統領に対する、コンプレックスもあったろうが、実はエルドアン大統領には、もっと深い考えがあったという事のようだ。ローザンヌ条約でオスマン帝国が多くの領土を失い、現在のトルコ共和国の領土に、限定されてしまったが、オスマン帝国が第一次大戦の後に交わした、セーブル条約では、現在、シリアやイラクの領土になっている、オスマン帝国の領土の多くが、まだ認められていたのだ。
その領土を奪還したいというのが、エルドアン大統領の本音のようだ。今、トルコ国内では、シリアやイラクから領土を奪還した後の、トルコの地図が各方面から出回っている。シリアの北部イラクの北部をトルコ側に併合した東西に一直線の地図が出回っているのだ。
その地図によれば、シリアのアレッポや、イラクのモースル、キルクーク、エルビルなどは、トルコの領土だということになる。これまでトルコが騒いできた、シリア北部の主な街テルアファル、ムンビジュなどは、全てこの新地図に含まれ、トルコ領土という事になるのだ。
エルドアン大統領はエーゲ海の島々についても、そこにモスクがあることを根拠に、トルコ領土であり、ギリシャ領土ではない、と言い出してもいる。
こうした、トルコ側の暴言にも近い発言に対して、当然、アラブやヨーロッパから反論が展開されている。例えば、『エーゲ海の島々にモスクがあることを根拠に、トルコ領土だと主張するのであれば、トルコのアナトリア地方にある、キリスト教会を根拠に、そこはアルメニアの領土だというのか。イラクやシリアだけではなく、湾岸諸国やイエメン、北アフリカの国々も、トルコ領土だと主張するのか。』というこという反論が出てきているのだ。
イラクやシリアについては、現在トルコ軍が国境に、戦車や重火器類を集結させており、明日にでも国境を超える侵攻が、起こりうる状態にある。トルコのフィクリ・イシク国防相は『もう待っている必要がない。何時でも作戦を始める、用意ができている。』と語っている。
そこで中東地域やギリシャが想起するのは、1974年に起こったキプロス紛争だ。この紛争でキプロスの半分を支配したトルコは、その後も返還することなく、統治権を維持し続けているのだ。つまり、トルコ軍がいったん侵攻し、しかるべき領土を確保すると、そこに居座り続け、そこからは出て行かないという事だ。
他方こんな見方もある。
エルドアン大統領は、国内に山積する問題を、ごまかすために、トルコ国民の愛国心を、煽っているのだというのだ。何処の国民も自国の偉大な歴史に陶酔し、領土の拡大となれば、歓喜するに決まっているからだ。
しかし、そうした悪酒の酔いざめはきついだろう。領土の多くが破壊され、多数の戦死者が出、国家財政は窮地に陥ることになるのは、誰にも想像がつこう。