『アラブ報道と西側報道の違いモースル戦』

2016年10月26日

 

 イラクのモースルで展開されている、IS(ISIL)打倒作戦は、思いのほか順調に、進んでいるのではないか。クルド自治区の軍隊ペシュメルガが健闘し、イラク軍も勇敢に戦っている。加えて、イラクのシーア・ミリシアも、タフな戦いをしているし、イラク軍への協力姿勢にある。

 こうなると、モースルのIS(ISIL)にとっては、極めて厳しい戦いを強いられる、という事であろう。最近目立つIS(ISIL)側の攻撃は、特攻方式だ。述べるまでもなく、爆弾を車に積んで敵側(イラク軍など反IS)に、突っ込むという作戦だ。

 この特攻作戦は斬首と並び、敵側を恐怖に追い込み、戦闘意欲をくじくことが目的であり、その攻撃で敵側が、敗退することはないのだ。

 今ではモースル市から56キロの地点まで、イラク軍は進撃しており、まさに白兵戦一歩手前にまで、IS(ISIL)側を追い込んでいるようだ。この攻勢で特に目立つのは、ペシュメルガ軍の攻撃だ。彼らの士気は高く、キルクーク奪還で得た自信が、裏付けになっているのであろう。

 モースル攻略は北からは、このペシュメルガ軍がIS(ISIL)を包囲し、南側からは、イラク軍が包囲し始めている。イラク軍もペシュメルガ軍も、このモースルからの、IS(ISIL)戦闘員のシリアへの逃亡を、阻止するつもりだ。アメリカは安全な逃亡ルートを保証する、とIS(ISIL)側にモースルからの脱出を、呼びかけたのだが、どうもアメリカの作戦は、うまくいかないようだ。(これはアメリカの汚い陰謀だ、とアラブは見ている)

 イラク軍やペシュメルガ軍が、IS(ISIL)の戦闘員のシリアへの逃亡を、阻止しようとするのは、当然であろう。もし、それが成功すれば、シリアの状況は再度悪化し、IS(ISIL)は優位に立つ危険がある。それは再度のイラク攻撃が、予測されるからだ。

これは何も、イラク軍やペシュメルガ軍が、シリアに対して連帯するから、IS(ISIL)戦闘員のシリア逃亡を阻止する、という事ではないのだ。IS(ISIL)の戦闘員がシリアに入り、コバネなどで戦闘を展開すれば、クルドの拠点である、コバネが不安定化するのだ。それは、将来のクルドの自治確立や、その先の国家樹立にとって、大きなマイナスにつながるのだ。

 このIS(ISIL)戦闘員のシリア脱出に、協力的なのはトルコであろう。トルコはいまだにIS(ISIL)を使って、シリアのアサド体制をつぶそう、と考えているからだ。他方、クルドはアサド政権と取引し、将来の自治権獲得への、ステップを踏み出している。

 トルコが軍をイラクやシリアに、送りたがっているのは、自国領土が危険になる前に、敵を外国領土内で叩く、という考えに基づいている。それはアメリカが展開してきた、戦略手法の真似なのだ。

 欧米はモースルのIS'ISIL)戦闘員の数を、出来るだけ多く報道し、戦闘は長期化すると宣伝しているが、実態は30005000人の戦闘員がいるとアラブ諸国は見ている。それすらも、少し多いのではないかと思われる。

 結果的にバグダーデイが唱えたイスラム国家の夢は崩壊し、IS(ISIL)への信頼感が薄れ、IS(ISIL)そのものが崩壊していくのではないのか。その日はあまり遠くなかろう。