失礼だが、いま一番中東で面白い喧嘩は、トルコのエルドアン大統領と、イラクのアバデイ首相が展開しているものであろう。双方が激怒しているだけに、迫真力があって面白い。
流れはこうだ。イラクのマリキ-前首相が、トルコに対してイラク軍に対する、軍事指導を依頼した。それを根拠に、トルコ政府は最近になって、トルコ軍をイラクのモースルの近くに、派兵した。
しかし、これは越境侵入であるとして、イラクのアバデイ首相が即時撤退を、トルコ政府に要求した。トルコ側はイラク政府の依頼を受けて派兵した、と言い張っているが、それには正当な根拠は無い。
アバデイ首相はトルコに対して、軍事指導を依頼したのは、マリキ-前首相であり私ではない。従って、トルコ軍がイラク領土内に留まる、何の正当性も無い、と言い張っている。
いまイラク軍は国際合同軍と協力して、モースル攻撃をかけよう、と思っている時期だけに、誰であれ味方してくれるものは、受け入れたいと思いそうなのだが、話はそう簡単ではない。
それはトルコのエルドアン大統領には、領土的野心がある、とイラク側が考えているからだ。そして、トルコ側が領土的野心を、現実化する根拠は、オスマン帝国時代の領土なのだ。
つい最近、エルドアン大統領はオスマン帝国が交わした、セーブル条約を認め、ケマル・アタチュルク大統領が交わした、ローザンヌ条約を認めない、という内容の発言をしている。
アバデイ首相は『イラクはオスマン帝国の領土ではない。』とも言いだしている。両国の歴史的傷はいまだに、消えていないようだ。この問題の仲裁をしうるのは、アメリカしかないだろう。そこでアメリカはこの問題を、どう考えているのか、ということになる。
アメリカの国務省スポークスマンは『アメリカはイラクの統一された領土を支持する。国際合同軍に参加する国はいずれであれ、イラクに駐留する場合、イラク政府の許可を必要とする。』と明確にトルコ軍のイラク駐留の正当性を、否定する発言をしている。
加えて、アメリカ政府国務省のスポークスマンは『我々はトルコ軍を、国際合同軍の一部だとはみなしていない。』とも語った。これではエルドア大統領がどんなに息巻いてみても、トルコ側の正当性は認められまい。国際合同軍の中心であるアメリカが認めず、ホスト国イラクも認めていなのだから。
結果的に、トルコ軍は他国に侵入した、占領軍というレッテルを、張られることになろう。エルドアン大統領はどの面をして、自国軍を撤退させるのであろうか。