『エルドアンのオスマン帝国の夢活性化』

2016年10月 1日

 

 

 エルドアン大統領はオスマン帝国の、亡霊にでも取り付かれているのであろうか。昨日も書いたが、ローザンヌ条約とケマル・アタチュルクに対する歴史的な非難だけではなく、今度はギリシャとの島の、領有問題を引き出してきた。

 彼に言わせれば、エーゲ海に浮かぶ島の多くは、オスマン帝国の領土であったが、それが第一次世界大戦の敗北によって、ギリシャに獲られてしまった、という考えだ。

 エルドアン大統領はいまこそ、その屈辱を跳ね除け、栄光のオスマン帝国の時代の領土を、奪還する時だということであろう。もちろん、このエルドアン大統領の発言に対して、ギリシャ政府は強い反発を示している。

ただ、もし、トルコとギリシャが武力衝突を、するようなことになれば、ギリシャには勝ち目は全く無い。しかも、トルコは今では、NATOのメンバー国になっており、シリア・イラク問題では重要な、位置を占めているのだ、その事は欧米諸国の仲裁の動きに、ブレーキをかけることにもなろう。

ただ、この行き過ぎたエルドアン大統領の動きに対し、野党第一党のCHPのクルチダウール党首は、猛烈に反発している。

彼は『誰にも歴史を裏切ることは出来ない。』と語り、次いで『何故この時期にこの問題を、エルドアン大統領は言い出したのか。トルコでは失業問題が拡大し、国民は生活に困窮している。トルコの81地域いずれもが、抱える問題からの出口を探しているのだ。ローザンヌ条約締結はトルコ人が行ったことであり、それを守る義務がある。彼らはセーブル条約だけを守るというのか。我々はアンカラ(共和国の意味)を守り、彼らはイスタンブール(オスマン帝国の意味)を守るというのか、我々は共和国を守り、彼らはカリフ制を守るというのか。我々は市民を守り、彼らは問題を守るというのか。大統領の座に就いた者は、国を裏切ることは許されない。エルドアン大統領が唱えたエニ・カプ精神(クーデター後のエルドアン大統領が呼びかけた国民大集会)とはそれなのであれば、我々は拒否する。』と語っている。

まさにクルチダウール党首の、言うとおりであろう。エルドアン大統領の夢想である、オスマン帝国の復興と、彼のカリフ就任には、トルコ国民の相当部分が、付いていけないだろう。

ただ懸念されることは、苦しい経済状態の下では、国民は栄光の時代への回帰を求めることもある。いま問われているのは、エルドアン大統領が正気に戻ることと、トルコ国民のこのエルドアン発言に対する、冷静な対応だ。

エルドアン大統領の感情の暴発が、ギリシャの歴史遺産を破壊(現実にシリアでもイラクでも、多くの貴重な歴史遺産が破壊されている)、するようなことがあってはならないし、多くの両国の国民を犠牲にすることも許されない。それほど不幸なことはあるまい。

:ローザンヌ条約―1923724スイスローザンヌで、トルコ共和国政府および西ヨーロッパ諸国との間に締結された講和条約(ウイキペデア)

;セーブル条約―第一次世界大戦後の1920810連合国オスマン帝国との間に締結された講和条約。条約を締結したメフメト6率いるオスマン政府(イスタンブル政府)に対し、ムスタファ・ケマルが主導してアンカラに組織されたトルコ大国民議会(アンカラ政府)はこの条約に反対。(ウイキペデア)