『PAアッバース議長の辞任とその後』

2016年10月29日

 

 PA(パレスチナ自治政府)の、マハムード・アッバース議長の辞任する日が近づいている。その事がどのような変化を、パレスチナとイスラエルに及ぼすのかが、いま話題になり始めている。

アメリカのオバマ大統領と同じように、終わりが近づくと、PAの場合も権力者は弱体化し、何らの成果も生めなくなるようだ。しかし、パレスチナの場合はそれだけではない。組織形態がアメリカほど、明確ではないために、種々の問題が内部から、噴出して来るだろう。

第一は、パレスチナの資金がどうなっているのか。誰がそれを押さえているのか、という問題だ。アラファト議長の死後も、巨額の預金が存在することが、明らかになった。

その金をアラファト議長の妻ソウハ女史から、どうやって取り上げるかが、問題になったといわれている。一説には、彼女が住むパリのマンションに、PLO(パレスチナ解放機構)の幹部が大挙して押しかけ、脅して出させた、ということのようだ。

マハムード・アッバース議長の場合も、そうであろう。アラブでは力の強い者、金のある者が結局は尊敬され、恐れられ、権力を握れる社会だけに、マハムード・アッバース議長も、例外ではなかった。

いま言われている後継者は、エレカト氏、ムハンマド・ダハラーン氏、バルグーテイ氏といったところであろうか。エレカト氏はいわばPAの高級官僚であり、マハムード・アッバース議長の側近だった人物だ。

ムハンマド・ダハラーン氏はかつては、ガザの治安責任者であり、PA幹部の中では若いことから、若者層に人気があり、未だにその人気を保っている。しかし、彼は存在が目立ちすぎ、マハムード・アッバース議長に警戒され、その職を追われ、その後も強い圧力を受ける立場に、回されていた。

バルグーテイ氏は現在、イスラエルの刑務所に投獄されており、たとえPAの議長に就任することが出来ても、刑務所から出してはもらえまい。つまり、彼がPAの議長になるとしても、それは形式だけのものでしかあるまい。

そうなると、エレカト氏とムハンマド・ダハラーン氏の一騎打ち、ということになる、ということではないか。エレカト氏にはマハムード・アッバース議長が味方し、ムハンマド・ダハラーン氏が、立候補できないような状態を、生み出すことも考えられよう。

そうなれば彼を支持する若者層が暴発し、パレスチナ内部は大混乱に陥る、危険性があろうし、その事はイスラエルの治安にとっても、危険性が高まるということであろう。今後アラブの緊張と危険は、シリアやイラクから、パレスチナに移るということであろうか。