『イラクのISの実態とモースル戦の予測』

2016年10月27日

 

 ヨルダンはイラクに隣接する国だけに、今回のIS(ISIL)と合同軍との戦闘の、影響を直接的に受ける国だ。今では、イラク・ヨルダン国境に集まる難民の問題があり、そこを狙うIS(ISIL)の危険な動きもある。

 従って、ヨルダンのイラク情勢に対する判断は、他の国に比べ、より正確なのではないか、と思われる。ヨルダンにはサダム時代の政府高官や軍の高官、多数亡命して居住しているし、彼らはヨルダン国内に、反イラク組織を創ってもいる。たとえば,サダム政権の与党バース党の組織が、ヨルダンにはあるのだ。

 そのヨルダンがつい最近、イラクのIS(ISIL)とイラク軍が展開しているモースル戦、そしてアメリカを始めとする合同軍の、戦闘支援に関する、予測を書いている。それは他に比べ、モースル戦の実態を、伝えているのではないかと思い、一部を紹介することにした。

 ヨルダンの記事によれば、現在モースルにいる、IS(ISIL)の戦闘員のほとんどは、イラク人であり、元サダム時代の軍人などによって、構成されているということだ。加えて、モースルの部族集団などだ。

 ヨルダンの情報によれば、欧米はモースル戦を、長期化すると主張しているが、案外、早期に終結するのではないか、ということだ。あるいは数週間で、けりが付くかもしれないとみている。

 イラク軍はこの戦闘に、3万人の軍人を投入し、それをアメリカやヨーロッパの軍が支援する形になっている。加えて、この作戦にはクルドや、シーアのミリシアも、参戦しているのだ。

 他方、IS(ISIL)側の戦闘員の数は、40008000人程度であり、市民を盾に使い、特攻作戦をしかけるしかない、という事のようだ。それでもアメリカ軍の幹部は長期戦を覚悟すべきと力説している。

 それは、IS(ISIL)にとってモースルを失うことは、その後の移動先が無いという事であり、ラッカがあると言っても、そこも次のターゲットにされているのだ。従って、IS(ISIL)側は死に物狂いの抵抗をして来よう、という判断に立った、見解なのであろう。

 ヨルダンの情報によれば、モースルにいるIS(ISIL)の戦闘員は、ほとんどがイラクの部族員や旧サダム派の軍人であり、外人戦闘員は限られた数であろう、とみている。

 イラク人のIS(ISIL)戦闘員は、派閥から飛び出した者たちであり、何らかのきっかけがあれば、彼らはたちまちにして、IS(ISIL)に敵対することも、ありうるというのだ。そうした例は、過去にイラクのアルカーイダで、実際に起こっているのだ。

 従って、イラク政府軍や合同軍が、IS(ISIL)に対して投降を呼びかけたり、シリアへの逃亡ルートを開いてやることは、賢明な対応策ということになろう。武器を捨てさえすれば、彼らはイラクの一市民に戻れるのだ。それが認められれば、60パーセント以上のIS(ISIL)戦闘員が、消えることになろう。

 ただ、モースルは細い道が多く、そこには戦闘車両や戦車は入れず、白兵戦のような戦闘が、展開される危険性がある。また、IS(ISIL)の戦闘組織は、よく訓練されており、計画されていることから、そう簡単には打倒できない、という見方もできる。彼らにはいまだに資金があり、武器も十分に持っているのだ。

 そして、モースルのIS(ISIL)が打倒されても、そこには部族や宗派の組織が存在し、今後も戦闘が続く可能性があるということだ。イラクの悲惨はIS(ISIL)が打倒されたとしても、当分は続くという事であろう。