『トルコの大本営発表と暗い未来』

2016年9月21日

 

 トルコ政府が軍隊を、シリアに進攻させて、既に1か月は過ぎたろうか。その間に伝わって来る戦争のニュースは、いずれもトルコにとって、好都合なものばかりだ。時折、トルコ兵が戦死した、というニュースも流れるのだが、散発的であり、あまり事実を伝えているとは、思えない。

 トルコ軍が戦闘車両や戦車を、シリア国境に搬送している写真が、公開されてもいるが、実数で何両の戦車が、シリア領内に入ったのか分からないし、何人の将兵がシリア領内に入っているのかも、分からない。あるいは、私が不勉強だからなのかもしれないが。

 つまり、報道が完全にコントロールされているトルコでは、国民はシリアでの戦争について、正確なことを把握できていないのであろう、それは私同様だ。そうなると情報は、ツイッターを通じてという事になるのだが、これも規制がかけられていて、内容によっては逮捕の対象になる。

 つまるところ、戦争の情報は人から人に、語られて広がるのだが、これもあまり期待出来ない。先日イスタンブールから来た友人は『本当のことはトルコの友人には語れない。貴方だけが安心して、本当のことを語れる相手だ。』と言っていた。

 そうなると、トルコ国民は情報が限られているなかで、不安だけが広がって行くことになろう。自分の家族が戦死したり、負傷したときにですら、あまり騒げないのだ。そんなことをしようものなら、非国民として断罪されることに、なるからだ。

 他方、トルコ政府はシリアでの戦果を、大々的に発表している。毎日のようにPKKの基地を攻撃し、何十人を殺害したという事が、伝えられているし、実際にはあまり攻撃していない、IS(ISIL)についてもしかりだ。

 加えて、トルコ政府はシリア領土の、1000平方キロ近い地域を、解放したとも発表しているが、それは将来、トルコが併合するという、前提なのであろうか。トルコは共和国が誕生する段階で、オスマン帝国の多くの領土を失っており、100年が経過する今日ですら、国民の多くはそのことを、忘れてはいない。トルコ国民がシリアでの戦争を支持するとすれば、このことが根底にあるからではないのか。

 大オスマン帝国の復活、エルドアンのネオ・スルタン、イスラム世界のカリフとしてのエルドアンの地位、シリアの難民にトルコ国籍を与え、仕事も与える、寛大なエルドアン大統領、これらのフレーズは多くのトルコ国民を、酔わせてくれる安物のラク(ブドウの蒸留酒)のようなものであろう。

 他方では、外国からの多額の借り入れで進める、メガ・プロジェクトの数々は、トルコ国民に魔法をかけるようなものだ。発展するトルコ、東西の要の重要国家、世界一広大な空港、世界の富豪が買いたがる、イスタンブールの沿岸の土地と豪邸。そのいずれもが、実は夢でしかないのではないのか。

 大東亜戦争時に、日本でも大本営発表というものが、あったということだが、いまのトルコの報道も、大本営発表ではないのか。私に言わせれば、トルコとエルドアン大統領は、アメリカとヨーロッパにとって、一時的に使えるコマに、過ぎないのではないのか。

 気が付いた時には、アメリカとヨーロッパに大借金をしており、トルコの土地の多くが、彼らによって買い占められている。そしてその挙句には、第二次オスマン帝国の解体、そんな未来が、見えるような気がするのだが。