エルドアン体制を支持したくない立場にある私だが、このことについては、エルドアン大統領に同情を禁じ得ない。欧米、なかでも、アメリカはトルコを中東地域における、戦略的パートナーとして、連携し来ていた。
そのことから、トルコはアメリカの意向に沿って、IS(ISIL)を背後から、支えてきていたものと思われる。ヨーロッパ諸国もしかりで、トルコがNATO加盟国であることから、種々の協力を要請してきたし、トルコのインジルリク空軍基地も、使ってきていた。
ところが、トルコが最大の問題であり、敵と認識している、クルドのPYD(政治部門)YPG(戦闘部門)について、アメリカは対IS(ISIL)戦闘における、戦略的パートナーとして、重きを置いてきているのだ。ヨーロッパ諸国もしかりであり、PKKやPYDなどの、政治宣伝活動を許可してきていて、阻止する意向は全くない。
そればかりか、アメリカはMILANミサイルを、YPGに提供し、YPGはこのミサイルを使い、トルコ南東部のハッカリでは、1月22日7月22日にテロ攻撃を加えているし、4月にはトルコ南東部のシルナクで、4月9日、21日、5月21日にテロ攻撃を実行している。
トルコの情報部の調べでは、トルコが最大の敵とみなしている、クルドのPKK(クルド労働党)の、イラク北部のカンデル山にある本部は、YPGやPYDも使っているということだ。
このカンデル山には、大量の武器が集積されているが、YPGはこの武器や爆発物を、そして戦闘員をPKKと共有している、という事のようだ。
YPGはシリアで少年兵を集めているが、その手法もPKKと同じものだ。PKKはトルコ国内で少年を集め、テロリストに育成し、戦闘に参加させているのだ。同じように、YPGも少年兵を訓練し、戦場に送り込んでいる、という事だ。
ここで浮かんでくるのは、近くアメリカが計画している、イラクのモースル奪還作戦で、YPGが参加することは、ほぼ明らかだが、トルコ軍はどうなのであろうか。敵対関係にあるYPGと同じ側に立って、IS(ISIL)掃討作戦を、行うのであろうか。
この点については、北イラク・クルド自治政府のバルザーニ議長は、次のように語っている。『トルコはモースル解放戦には参加しないだろう。しかし、何らかの協力はすると思われる。』と語っている。
トルコはアメリカの盟友であったが、この段階に入り、アメリカとの間には、溝が深まって行くのではないか、と思われる。そうなると、トルコとロシアとの関係は、いまよりも強いものに変わって、行くのではないか。
そのことは、政治軍事面で、中東地域全域に影響を及ぼして行こうし、トルコとEU諸国との関係にも影響し、ついにはNATOそのものにも、ドイツ・フランスなどの対ロシア関係にも、影響を及ぼしていくのではないか。アメリカは次第に、中東地域やヨーロッパ地域での、居場所を失って、行くのかもしれない。