エジプトには、1000年を超える歴史を誇る、イスラムの最高学府、アズハル大学がある。世界の多くのイスラム学者は、この大学で学び、それぞれの国に帰国し、宗教分野で要職を占めている。
したがって、アズハル大学の発表する学説や立場は、世界中のイスラム学者たちから、相当な重みをもって、受け止められているのだ。そうしなければ、世界中のアズハル大学で学んだ学者たちは、自分の権威を失ってしまう、危険性があるのだ。
そのアズハル大学の学長兼ムフテイ(国家のイスラムにおける最高権威者)、のシェイク・アハマド・タイブが、『サラフィはスンニーではない。』とチェチェンのグロズニー市で開催された、100か国以上から代表が集まった、世界イスラム宗教者会議で、発言したのだ。
しかし、サラフィはサウジアラビアなどでは、権威ある指導的な立場を、維持しているため、このシェイク・アハマド・タイブの発言は、大きな政治を含む問題に、発展している。
サウジアラビアの国教的なスンニー派のワハビー派は、サラフィの一派であり、サラフィを否定されることは、サウジアラビアにとっては、ワハビー派を否定されることに繋がるのだ。
当然のこととして、サウジアラビアから参加した学者の間から、猛烈な反発がシェイク・アハマド・タイブに、向けられることになった。
何故シェイク・アハマド・タイブがこのような発言をしたかというと、サラフィ派が穏健ではないために、各地で戦闘を展開し、イスラム世界が不安定になり、危険な場所になっているからであろう。
エジプトも例外ではなく、ムスリム同胞団やIS(ISIL)、その他のサラフィ系の組織から、攻撃を受けている。この会議がロシアで開催されたことにも、意味があったろう。
他方、サウジアラビアと言えば、サラフィ系の各組織に、資金や武器を含む、援助を行っている。最近では、アメリカやロシア、トルコなどから、IS(ISIL)などがイラクやシリアで攻撃を受け、不利な立場に立っているために、これらの組織に対する、サウジアラビアの援助が、増えていると言われている。
今回の、アズハル大学のシェイク・アハマド・タイブの発言は、多分に自国の政治的な事情を、含んだものであったろうし、それに反発したサウジアラビア側も、しかりであろう。
西側諸国の工作で、イスラム教徒はスンニー派とシーア派に分裂し、対立するようになったが、ここに来て、スンニー派内部にも、分裂と対立が本格化していく、ということであろうか。その先に見えるのは、イスラム教徒の敗北、でしかないのだが。