NATO軍のなかでも、最強の陸軍力を持つトルコが、シリアに侵攻した。相手はクルドのミリシアであり、名目上はIS(ISIL)にも攻撃すると言っている。しかし、実際にトルコ軍の攻撃を受けているのは、クルドのYPGのミリシアだ。
50台の戦車を連ね、装甲車や重砲をもって押しかけられては、YPGには勝ち目が無かろう。トルコの意向もあるが、アメリカはそうした冷静な判断から、YPGに対してトルコが要求しているように、ユーフラテス川の東側に移動するよう、勧めている。
つまり、アメリカにとってクルドのミリシアは、アメリカのために戦う、戦闘部隊ということだったのだ。したがって、当初、トルコ軍が侵攻したとき、クルド側はアメリカが味方してくれる、と思っていたろう。しかし、実際にはアメリカはクルドに対して、ユーフラテス川の東岸に移動するよう、指示している。
だが、アメリカはクルドのミリシアを、完全には見捨てたわけではなかった。あまりにも激しいトルコ軍の、クルドに対する攻撃について、クレームを付け始めたのだ。
アメリカはトルコ軍によるクルドへの攻撃は、結果的に、IS(ISIL)に安全地帯を提供することになり、将来、立て直したIS(ISIL)がアメリカやトルコに、攻撃をかけて来る、と警告した。
それはそうであろう。ただトルコはこれまで、IS(ISIL)攻撃と称して、実はクルド攻撃を繰り返してきているのだ。それはシリアのアサド体制を打倒する上で、IS(ISIL)は好都合な存在だったからだ。また、湾岸諸国との協力関係でも、IS(ISIL)は重要な役割を、果たしていた。だからトルコは、IS(ISIL)に対して各種の便宜を、図ってきていたのだ.
そう考えると、トルコが最近言い出している、IS(ISIL)打倒はあまり意味の無い、発言かも知れない。IS(ISIL)を攻撃すると言えば、実際にはクルド攻撃であっても、世界から非難される度合いが、低いからであろう。
クルド側はトルコ軍の、今回のシリアへの侵攻は、領土的な野心がある、とも非難しているし、同様の趣旨の発言を、アサド大統領もしている。EUの議員の一人はトルコのシリア攻撃について、批判する権利は無い、と語っているがそれは、難民問題が絡んでいることから来た、リップ・サービスではないのか。
今後、トルコ軍の攻勢は、ますます激しさを増すだろうが、それにつれて各国の利害が明確になって行き、現在とは違う対応が、如実に現れてこよう。戦いは始まったばかりであり、今は判断するには早すぎるだろう。