『トルコ・エルドアン体制の終焉近い』

2016年8月26日

 

 これまで何度も、トルコのエルドアン体制の国民に対する、締め付けが限度を超えている、と書いてきた。そのことがあってか、トルコ人の友人から、当分、トルコを訪問しないほうがいいだろう、というアドバイスを受けた。

運が良ければ入国禁止で、空港からどこかの国へ行くよう、命令されるか、あるいは入国した後で、尋問を受けるかということが、ありうるというのだ。確かに私には、多くのギュレン派の友人がいる。そもそものトルコとの関係は、ギュレン派組織が日本に留学生を、送りたいので支援してくれ、ということから、始まったものだった。

 そうした関係から、ギュレン派の内容については、よく知る数少ない日本人の一人が、自分だと思っている。多くの友人の家族が、逮捕投獄された、というニュースを聞くたびに、心痛めている。

 トルコのギュレン派の人たちが訪日すると、私の意見を聞きたがって。『今後トルコはどうなるのか?』と問われる。そのたびに応えるのは『太陽は昇が必ず沈む。』と答えている。

 しかし、ここに来てどうやら太陽が、本当に沈む時が来たのではないか、と思うようになった。それは確信に近いものだ。エルドアン体制が近い将来、終わりを告げる、と思うようになったのだ。 

 ではエルドアン体制の強みはなんだったのか?

:エルドアン大統領の個人的な魅力(カリスマ性)

:エルドアン体制下で経済が躍進した

:エルドアン体制を欧米が必要とした

 

 簡単に言うとこういうことであろうが、エルドアン大統領のカリスマ性については、今後もあまり変わらないだろう。しかし、そのほとんどは彼の、誰か構わない暴言であり、経済的躍進によるものであろう。暴言は夏の日の冷たいビールのようなものであろう。あるいはトルコなら、ラク(ブドウから作ったアニスのエッセンスを入れた酒で、水や氷を入れると白濁する。このためライオン・ミルクとも呼ばれている)のオンザロックであろうか。その後には二日酔いの苦しみがあるのではないのか。

 経済の躍進は、確かにエルドアンが首相になって以来、10年間で大躍進を遂げた。しかし、それは優秀な官僚『ギュレン派』の手腕と、民間企業の努力だった。なかでも、中小企業の努力は、目を見張るものがあった。

彼らはTUSKONと呼ばれる組織を立ち上げ、この組織が世界各地から、ビジネスマンを招待し、大ベントを開催し、貿易取引促進会を、開催していたのだ。そして、その中小企業のオーナーの多くは、ギュレン・グループのメンバーだったのだ。

 しかし、そのことを無視し、大手の企業を優先する、メガプロジェクトを強引に進め、中小企業のオーナーたちをギュレンがらみで、逮捕投獄した結果、中小企業は死に体になっている。派手に見える大規模プロジェクトは、対外債務を増やしてもいるのだ。トルコの経済に対する将来的見通しは、暗いと言わざるを得まい。フィッチなどのトルコに対する評価は、下がっている。

 それでも一見、トルコは活発なように見えるのは、アメリカとEU諸国との関係が、良好であったからだ。アメリカはシリアとイラクに対する対応上、トルコの役割に期待してきた。IS(ISIL)に対する支援はもっぱら、トルコを中心にして行われ、サウジアラビアやカタールが、それを裏から支えていたのだ。

 アメリカはここに来て、IS(ISIL)対応に終止符を打つ方向に、変わっている。つまり、アメリカのシリアとイラクに対する目的は、ほぼ完了したということであろう。そうなると、トルコのインジルリク空軍基地の価値は、低減することになり、場合によっては、アメリカ軍がインジルリク空軍基地を、離れるかもしれない。

 事実、最近になって、元駐トルコアメリカ大使は『アメリカはインジルリク空軍基地を手放して、シリアやイラクに基地を持つべきだ。』と言い出している。それは彼個人の意見ではなく、アメリカ政府内部にそうした考えがある、ということであろう。

 アメリカがトルコを、軍事同盟相手と考えなくなれば、エルドアン大統領の国際的な価値は、ゼロに等しくなるということだ。そうなれば、アメリカはサウジアラビアやカタールに対して、トルコへの経済支援は中止していい、と告げるだろう。

いまトルコには訳の分からない金が、流れ込んで来ている、だからトルコでは、あまり経済的な問題が、発生していないのだ、とトルコの友人が語っていたが、それはカタールからの金であり、その金でエルドアン体制を、支えているのだ。

EU諸国なかでもドイツとの関係は、どうであろうか。トルコはNATOのメンバー国であり、アメリカに次ぐ最大の陸軍を擁している。トルコはNATOの中東の前線基地に、なっているのだ。

加えて、シリア難民問題はドイツを始めとした、EU諸国に大きな負担となっており、流入元のトルコが阻止してくれなければ、らちがあかない状況にある。エルドアン大統領はこのことを梃に、EUに対して、60億ユーロの難民対策支援金を、要求してきたし、EUへの参加を認めろ、トルコ人のEU入国のビザを必要なくしろ(ビザ・フリー)と要求してきている。

アメリカがシリアやイラクの、IS(ISIL)問題を解決し、シリアやイラクの国内状況が安定化に向かえば、ほとんどの難民は、ヨーロッパ諸国から帰国することに、なるだろう。そうなれば、EU諸国はトルコに、気兼ねしなくてよくなるのだ。

ドイツの国防大臣は、トルコのインジルリク空軍基地から、ドイツ機が撤収することもありうる、と語ったが、その発端は、アルメニア人虐殺をドイツ議会が、承認したことに対する、トルコの反発があったためだ。

トルコはこのアルメニア人虐殺問題があったことから、ドイツ議員のインジルリク空軍基地訪問を阻止したことが、問題の発端になっているのだ。ドイツが軍をトルコのインジルリク基地から、撤収するということについて『留まりたい。』とも語っているが、流れはすでに『さようならトルコ』ということに、なって来ているから、出た撤収発言ではないのか。

つまり、いまの段階に至って、アメリカもEU諸国も、トルコの持つ戦略的価値を、放棄する方向にあるということだ。その後のトルコは、どうなるのであろうか。経済は目に見えて悪化し、外資は流れ込まなくなり、国内ではPKKIS(ISIL)のテロリストが跋扈し、治安は極度に悪化しよう。

エルドアン大統領はそのような将来を、全く想定しなかったのであろうか。闇雲にギュレンがらみということで、優秀な軍人や検察、警察を更迭し、あるいは投獄してきているのだ。つまり、エルドアン大統領はトルコの治安の頭脳も肉体も、自らの手で破壊してきたのだ。これでは治安対策もテロとの戦争も、有効な作戦は立てられまい。

そして、その後エルドアン体制は、血みどろのなかで、終焉を遂げるだろう、というのが私のトルコ・エルドアン体制の近未来予測だ。この予測には無理があるだろうか?あるいは読者は賛同してくれるだろうか?。

『アッラー・アアラム=アッラーのみが知っている』