7月15日に起こったクーデターは、その後も大きな影響を、トルコ国内外に及ぼしている。多くの官僚が逮捕投獄されているし、学者、ジャーナリスト、ビジネスマンもしかりだ。結果的に会社を政府に没収されたり、自宅から金まで巻き上げられた、ビジネスマンもいる。
ジャーナリストは真実を伝えることが、自分の命と交換であることを、よく分かっており、誰もが真実を伝えようとしなくなっている。それは司法の世界でも同じことだ。誰もがお互いに監視しあう社会に、いまのトルコはなっている。
そのような社会をどう呼ぶかは、個々にお任せするが、何やら第二次世界大戦時に、一部のヨーロッパの国々で起こっていたことに、似ていると思えるのだが。あるいはスターリンの、ソビエトの時代か。
権力による、元権力への取り締まりも、始まっている。元首相だったダウトール氏の外交顧問だった、バルク氏がここに来て、問題視されている。それは、彼がダウトール首相とギュレン氏の、会談を仲介したからだ。
この問題はギュル元大統領にも、及ぶことになる。彼もこのことを知っていたからだ。ただ、ダウトール首相のギュレン会談が、事前にギュル大統領に報告され、許可を得ていたのかどうかが、不明な状態になっている。
エルドアン大統領がもし腹を立てれば、元大統領のギュル氏や、元首相のダウトール氏も逮捕され、場合によっては、投獄されるかもしれない。
この大スキャンダルで役割を果たした、バルク大使はだけではない。多くのトルコ人外交官が、ギュレン氏との関係を、疑われ始めている。300人の外交官が、本国への帰国を命令され、取り調べを受けることが決まった。
彼らがもし、ギュレン氏と関係があったり、ギュレン氏の組織ヘズメトと、関係があったということが、明らかになれば、当然の帰結として、彼らは刑務所に送られ、資産はすべて没収され、社会人としての権利を、家族を含めて、奪われることになる。
ギュレン関係者として逮捕された本人と、家族は病院に行けず、就職が出来ず、旅行が出来ず、パスポートは剥奪され、家も資産も没収され、死亡した場合には、自分の家の墓にも埋葬されないし、イマームもジャナーザ(死者を弔う宗教儀式)も行なってくれないのだ。
気になるのは、エルドアン大統領のこうしたやり方が、トルコそのものの可能性を、全て潰してしまうのではないのか、ということだ。経済計画を立てる人材も、それを推進ずる人材も、外交政策を立案する人材も、それを行う人材も、教育分野でも、科学分野でも、皆優秀な人材が、追放されているのだ。
このことについて、問題提起するマスコミの自由は、いまのトルコには無い。誰もが真実を語りたがらないのだ。『裸の王様』の話のように、誰かがエルドアン大統領に、間違いを直言すればいいのだが、そんなことをしたら、彼は無縁墓地に入ることになろう。恐ろしいことだ。