トルコが第二共和国として、再スタートを切るきっかけとなった、7月15日クーデターとその後の国内の動向は、確実にトルコの国家としての体力を、失わせている。多くの有能な官僚が更迭され、あるいは投獄されている。そのなかには、学者も多く含まれている。
それは何度も書いてきたが、ここに至って何が問題かというと、トルコ軍がエルドアン大統領の意向にそって、完全に再編成され、骨抜きの状態になっている、ということだ。すでに軍に残る将官たちは、全てがエルドアン大統領のイエス・マンたちであり、決してエルドアン大統領に反論しない。それではエルドアン大統領は軍事についても、天才的な能力を持っているのであろうか。
こうした状況は大分前から、進められてきていた。エルドアン大統領が権力を握った段階から、実はクルド対応の特殊部隊が、解散させられていたのだ。その結果、クルドに対する対応は、骨抜き状態にあったのだ。
それはその後に、エルドアン大統領が進めた、クルドとの融和政策の一環であったとも、言えなくはないのだが、極めて危険な選択肢であったろうと思われる。以来、エルドアン大統領はPKKのボスである、オジャラン氏を幽閉し、HDPを使ってクルド人たちが、政府に抵抗しないように、仕向けてきた。しかし、それは選挙におけるクルドの躍進で、胡散霧消になっている。
今回のクーデター後の動きについて、かつてクーデターを計画したとされ、その職を解かれ、2年間刑務所に入れられていた、空軍の将軍(4星)ビルギン・バランル氏が、今日のトルコ軍の、危うさについて語っている。
彼ビルギン・バランル将軍が、クーデターを企てた時、236人の将官が逮捕されている。体制側(エルドアン大統領側)は5年間で我々の努力を水泡に帰してしまった。軍は解体されたも同然の、無力な組織に変貌した。
その後、無能でギャングのような連中が、軍の要職に就任したのだ。空軍では数百人の将校クラスが拘束されたが、誰もそのことに、異議を唱えようとしない。盲目状態にあるのだ。
トルコ軍が2011年以前の、精強さを取り戻すには、最低でも10年の歳月を、必要としよう。これがビルギン・バランル将軍の語った要旨だが、まさにその通りであろう。NATOからの離脱、インジルリク空軍基地のNATO加盟国諸国に対する使用制限、アメリカとの不仲、ロシアとの関係改善は、大きな変化をトルコに、生み出しそうだ。
トルコでいま起こっている変化は、実は西側世界全体にとって、極めて危険であり、重要な難問だということを、認識すべきであろう。その意味では、8月9日に予定されている、プーチン・エルドアン会談が何を話し合い、両国関係がどこまで進展するか、注目したい。