『危ういエルドアンのクーデター勝利後』

2016年7月26日

 

 715日に起こった、クーデターをうまく抑え込めたことで、多くの国民の信頼と、称賛を勝ち得たエルドアン大統領は、絶対的な自信を持つに至ったのかもしれない。

 しかし、その勝利の美酒は、やがて彼に二日酔いの苦しみを、及ぼすかもしれない。イスタンブール市のタクシム広場に集まったトルコ国民は、確かに、エルドアン大統領のクーデター鎮圧を称賛してはいるが、そのこととエルドアン大統領に対する支持とは、別のものではないのか。

 タクシム広場に集まった、多数のトルコ国民の間から聞こえてくるのは、クーデターに対する反発の声ではあるが、同時に『独裁に反対。』という声なのだ。その独裁体制とは何を指し、独裁者とは誰を指すのか、ということを考えてみれば、答えは簡単であろう。

 言うまでもなく与党AKPの独裁体制であり、独裁者はエルドアン大統領、ということなのだ。クーデター反対にかこつけて、野党側がこのデモを盛り立て、それを見てエルドアン大統領は自分に対する支持だ、と誤解し喜ぶことを、期待しているのではないか。

 そして時間が経ち、気が付いた時には、エルドアン大統領の独裁体制に対する反対に、タクシム広場に集まった大衆は、変化していくこともあり得よう。ここで問題なのは、エルドアン大統領が今回のクーデターを機に、彼に敵対する人士を、多数政府のポジションから追い出したことだ。

 加えて、多くのギュレン派のビジネスマンが、政府の攻撃の対象になり、やがて企業が潰される運命にある。以前、トルコ政府はギュレン系企業の数は、6500社だと発表したことがある。このなかには大手から、中小企業までもが含まれている。

 このギュレン系企業打倒を宣言したのは、ビュレント・トフェンクジュ商工大臣だが、こうした措置が本当に採られれば、多くの企業が倒産するだけではなく、多くの失業者が出るということなのだ。それはトルコに、社会不安をもたらそう。

 そもそも、エルドアン体制下で、トルコの経済を大幅に改善させた主役は、ギュレン系企業の国際戦略の、勝利によるものだったのだ。それが政府の弾圧を受ければ、当然の帰結として、トルコの経済は悪化することになろう。

 エルドアン大統領に対する、これまでの国民の支持は、経済が改善されていたからに、他ならない。ここで経済が落ち込めば、トルコ国民のエルドアン大統領に対する支持も、揺らぐことになろう。

 ギュレン学校を卒業して、国家公務員になっていた多くは、真面目で優秀な人材たちだった。彼らの首をはねるということは、トルコの政府は頭脳を持たない、モンスターになるということだ。そのモンスターは、エルドアン大統領の意志とは、関係の無い方向に、動き出す危険が大いにあろう。そのなかには、第二のクーデターが計画される、可能性もあろう。