『偉大なネオ・オスマン帝国皇帝の誕生は夢』

2016年7月19日

 

 今回のクーデターに絡んで、トルコでは300万人の国家公務員に、足止め(出国国内移動禁止)を命令し、2800人の軍人を拘束し、6000人が逮捕され、その中には判事、検察官、警察官などが含まれている、などなど。多数の逮捕者を出し、多数が追放され、あるいは左遷されている。

 挙句の果てには、トルコ政府はアメリカに亡命している、ギュレン氏をアメリカ政府に対して引き渡すよう、正式に交渉を始めているということだ。もし、アメリカがギュレン氏を、エルドアン大統領に引き渡すことになれば、当然死刑の判決を下すことになろう。

 その裁判が公正であるか否かなど、全く問題にはなるまい。クーデターを裏で仕掛けた男、という一言で最重大犯罪者ということになるからだ。トルコ国民の多くは、クーデターに対する敵意から、エルドアン大統領のギュレン氏に対する対応を、全面的に支持することになろう。

 こうした大イベントの後では、国民は酒に酔ったような状態になるのだから、冷静な判断など、ほんの一握りの人たちにしかできまい。しかし、その人たちが冷静な判断を口にしたりすれば、彼もギュレン派とみなされ、逮捕されることは間違いない。

 さすがに、ヨーロッパ諸国やアメリカは、現状を冷静に見ている。フランスなどは今回のクーデターで、エルドアンが白紙委任状を得たわけではないと語り、もし死刑が執行されるようなことになれば、トルコのEU加盟はありえなくなる、とまで言っている。

 しかし、エルドアン大統領はその事を、全く気にしていないのではないか。彼はシリア問題で妥協すれば、ロシアと手が組める、と考えているのであろう。これまでのアメリカとの関係をご破算にするかもしれないし、NATOがトルコを追放するかも知れない。

 今回のトルコのクーデターは、エルドアン大統領を第二オスマン帝国の皇帝にし、ヨーロッパやアメリカの中東、ヨーロッパ地域政策に、大きな変化を生み出す危険性があろう。

 そのことを日本も真剣に分析する、必要があるのではないのか。エルドアン大統領と親しい安倍総理ということは、お世辞であろうが、あまり褒められたことではなくなる、ということだ。

 そして、これだけ混沌とした状況にトルコがなってきた段階では、『世界で最も親日的な国トルコ』などという甘言に誘われて、のこのこ観光旅行などに出かけるのは、愚の骨頂であろう。今回のクーデターの後も、日本人観光客がトルコから帰国していたが、どこにも緊張感など無いではないか。日本人は危険に対して、完全にマヒ状態になっているのではないのか。