シリア北部の街コバネでの、ISとの戦闘でクルド人たちは、シリア北部に自治区を創設する夢を抱いた。そして、それは次の段階であるクルド連邦構築の、夢へと繋がっていた。
しかし、ここに来てそれらの夢は、夢に帰してしまう可能性が、高まってきている。それは、クルド内部に幾つもの亀裂が、生まれ出したからだ。クルドを代表する、トルコのPKKはトルコとの戦いに、重点を置いている。
他方、PYD(シリアのクルド組織)は、シリアのローカルな政治に影響を及ぼしたい、と考えている。PKKは北イラクのカンデル山の本部から、トルコとシリアに、影響を及ぼしたい考えのようだ。
しかし、そのPKKはトルコ軍の猛爆を受け、カンデル山から本部を移転させることも考えており、化学兵器で多くのクルド人が犠牲になった、イラクのハラブジャに移動する、というアイデアが浮かんできている。つまり、クルドは内部で対立と混乱、そして分裂が始まっている、ということであろう。
クルドが混乱に陥ってきている原因には、石油価格の急激な下落があろう。3年ほど前は、石油がバーレル110ドルもしていたため、北イラクのクルド自地区は、クルド組織に対して、大きな影響力を持つことが出来ていた。
しかし、いまではクルド自地区の収入は激減し、4000のプロジェクトが停止状態にあり、そのなかには500の学校建設も、含まれているということだ。以前は『新ドバイ』といわれ、瀟洒な住宅や公共施設の建設が行われたのだが、いまでは見る影もなくなった、ということであろう。
社会サービス予算はカットされ、公務員の給与の遅配も始まっている。そうした状況から、イラクのクルド組織の対立が、目立ってきている。KGP,PUKに加え、変化への行動(GORAN)が誕生し、ますます内部は混迷してきているということだ。
石油価格の低迷に加え、IS(ISIL)の台頭もクルドにとっては、頭の痛い問題になっている。IS(ISIL)がイラクのモースルに、拠点を置いたということは、クルド地域がそこから50キロしか離れていないために、何時IS(ISIL)が侵攻してくるか、分からないのだ。
難民の問題も、クルド自治政府の抱える大問題だ。クルド自治政府の人口は550万人なのだが150万人の難民が押し寄せてきているのだ。内訳はシリア難民が25万人、残りは戦火を逃れた、イラク国民なのだ。
この様な状況から、欧米諸国はいま、クルドのイラクからの分離独立を、支持しないようになってきている。アメリカ政府も然りだ。