『トルコがシリア難民に国籍付与の問題化』

2016年7月 8日

 

 トルコのエルドアン大統領は、何処までシリア難民に、やさしいのであろうか。270万人以上のシリア難民を受け入れ、彼らを支援しているが、それだけでは足りず、労働許可を与え、次いで国籍を与える、と言い出している。

 このエルドアン大統領の考えを、周囲は疑問視している。一説によれば、270万人ではなく、トルコ在住のシリア難民の数は、既に300万人を超えている、と言われている。シリア難民に、トルコ国籍を与えれば、次々とシリアから難民が、トルコに流入し、同じようにトルコ国籍を、取得しようとするだろう。

 このエルドアン大統領の新提案に対し、野党は反発の意志を明らかにした。野党第一党のCHPの代表は『こんな案は受けいれられない。』と撥ね付け、もう一つの野党MHPも『こんなことをしたら帰国を考えているシリア難民も、トルコに留まり、帰国しなくなる。』と反対している。

 これら野党の反対はもっともであろう。シリア難民、しかも、300万人近い人たちに、トルコ国籍を付与すれば、あらゆる面で、その障害が発生しよう。シリア人の技師や医師たちは、低賃金で働こうとするだろうし、そうなれば失業中のトルコ人技師や医師には、就職のチャンスが、極めて少なくなるということになろう。

 野党MHPのギュナル氏は『シリアなどから帰国している、トルコ・オリジンの人たちの国籍問題が、未解決になっているなかで、シリア人難民に国籍付与を優先するのは、筋が通らない。』と反発している。

 野党の代表者たちは、今回のエルドアン大統領の方針は『政治的人道主義の宣伝行為だ。」と非難しているが、それはその通りであろう。

 いやなことを予想すると、トルコ政府はシリア難民に、トルコ国籍を与えて選挙に参加させ、与党AKPに投票させることを、考えているのかもしれない。そうなれば、AKPは絶対有利になる、と思われるからだ。しかし、この切り札は両刃の剣になるかもしれない。トルコ国民がこの考えに反発する、可能性も否定できないからだ。

 もう一つ考えられるのは、トルコ政府が国籍を与えたシリア難民のなかから、ヨーロッパで破壊工作をする、影の戦闘部隊を結成することだ。彼らはシリア難民という立場ではなく、トルコ国民としてビザを申請し、堂々とヨーロッパに入って行くことができるのだ。

 その陰の戦闘部隊は、なにも破壊工作をするとは限らない、種々の政治活動をすることも、ヨーロッパ諸国にとっては、頭の痛い問題になりうるのだ。また、トルコ国籍を取得したシリア難民が、ヨーロッパに続々と入って行けば、それだけで社会不安は、高まることになろう。

 エルドアン大統領が要求している、EUのメンバーになることや、ビザ免除が実現すれば、そのいずれでも大きな不安を、ヨーロッパ諸国に生むことになろう。従って、野党の今回の立場は、ヨーロッパ諸国から強い支持を、受けることは必定であろう。