トルコはいま難しい問題を、3つ抱え込んでいる。そうでなくとも、国内問題で頭を悩ましている、エルドアン大統領にとっては、これから説明する3つにの問題は、極めて解決困難なものであろう。
第一の問題は、アメリカとの信頼関係だ。アメリカは最近になって、IS(ISIL)やシリアにいる、ヌスラといった過激なテロ組織の、掃討作戦を行う方向にシフトしたが、それにトルコにも、参戦してほしい意向だ。これまで何度もその要請をしたのだが、トルコ側はいい返事をしていない。
それは、アメリカがいまこの作戦に、クルド組織やクルドのPKK(クルド労働党)と連携していることだ。トルコに言わせれば、シリアのクルド組織PYGは、PKKと並んで、過激なテロ組織でしかなく、自国にとって、極めて危険な存在なのだ。
したがって、アメリカに何と言われようとも、トルコはアメリカがクルドと手を切らない限り、参戦したくないのだ。敵と同じ陣地で戦うということは、敵を利することにつながるものであり、当然呑めまい。
しかし、アメリカにしてみれば、そうしたトルコ側の事情などは、意に介していない。この結果、アメリカとトルコとの関係は、今後ますます悪化していくのではないか。一時期、エルドアン大統領はアメリカや、オバマ大統領との特別な関係を、自慢していたのがそれは、昔話でしかないということだ。
第二の問題は、ロシアとの関係だ。ロシア機がトルコの領空を、領空侵犯したということで、トルコがロシア機を撃墜し、パイロットが死亡する、という事件が起こったが、それ以来、ロシアとトルコとの関係は、劣悪な状態に陥っている。外交・経済いずれの面からみても、回復には相当な時間が、かかりそうだ。
ロシアとトルコは時折、関係改善のアドバルーンを上げるが、それはアドバルーンに過ぎまい。プーチン大統領はやがて、トルコのエルドアン大統領に、ツケを払わせる、という考えであろう.最近、トルコはロシアがクルドに武器を与えている、と非難し始めているが、それは大分前から行われてきていることだ。
第三の問題は、シリア難民に対する安全地帯の構築提案だ。これはトルコが出した提案であり、エルドアン大統領は一日も早く、実現したいと思っている。加えて、飛行禁止空域も、定めたい考えだ。
トルコは現在300万人を超す、シリア難民を自国内に抱え込んでおり、その難民に対する支援は、相当な経済的負担となっていよう。シリアの難民をシリア領土内に設置する、難民キャンプに押し戻せれば、トルコの負担は大分楽になろう。
しかし、誰がその安全地帯に設置された、難民キャンプの安全を、保障できるのかという問題がある。それは、世界が安全地帯の経費を負担し、トルコ兵が守るということであろうが、それは容易なことではない。
シリアは自国内にトルコ軍が侵入してきて、安全を守ると言えば、それは結果的にトルコによる、領土の奪取につながると受け止めよう。またアメリカはシリア北部のクルド自治区構想が、胡散霧消するとも考えて、賛成すまいし、多くの先進国はその安全地帯の、経費負担を嫌おう。
結局、トルコはこの安全地帯建設構想を、夢で終わらせそうだ。