『カイロでIS(ISIL)によるテロ警官8人犠牲』

2016年5月 9日

 

 エジプトの首都カイロで、IS(ISIL)によるテロ事件が起こった。ミニ・バスに乗っていた警官8人が、このテロで犠牲になっている。これはいままで、シナイ半島北部に集中していた、IS(ISIL)の行動範囲が、カイロにまで広がった、ということだ。

 そのことは、述べるまでもなく、その他の大都市、たとえばアレキサンドリアでも起こるし、その他の都市でも起こりうる、ということであろう。まず懸念しなければならないのは、観光地でのテロ事件だ。それはエジプトの外貨収入に占める、観光収入が25パーセントと大きいからだ。

 何故、IS(ISIL)はカイロでテロを、起こせたのであろうか。それは現政権に対して不満を抱いている、多くの国民がいるからではないのか。IS(ISIL)を支援する組織として、第一に挙げられるのは、ムスリム同胞団だ。

 それ以外にも、ジャーナリストに対する締め付けなどが、国民の反発を買っているし、失業率も高く、物価も値上がりしている。つまり、いまのエジプトには、シーシ体制に不満を抱いている人たちが、多数いるということだ。

 ムスリム同胞団とIS(ISIL)との関係が、どの程度のものであるかは知らないが、これまでIS(ISIL)を支援してきている国の、筆頭はトルコであり、トルコはIS(ISIL)に対して、武器の供与や、戦闘員の自国通過などを、認めてきている。

 しかも、トルコのエルドアン大統領は、エジプトのシーシ政権を、目の敵にし、痛烈な非難をしてもいる。従って、トルコがIS(ISIL)に働きかけ、今回のテロを起こさせた、という推測もいい加減とばかりは言えまい。

 問題は今回のテロが、どのような反応を、エジプト国内に広げていき、周辺諸国や世界の主要国との関係に、影響を及ぼしていくかということだ。エジプトは軍事大国であり、アラブのなかの先進国であることから,同国の持つ諜報活動、対テロ作戦ノウハウなどを、湾岸のアラブ諸国に、売り込んでもいたのだ。

しかし、今回のテロ事件を機に、アラブ湾岸諸国のエジプトに対する、治安上の信頼感は揺らぐのではないか。先進諸国を始めとする、世界の国々はエジプトが、いまだに不安定であり危険だ、というイメージを強めようから、観光客には自粛するよう、働きかけよう。

 そうなると、アラブ湾岸諸国の経済支援を根底とする、投資の増加も減る傾向になろうから、エジプト経済は収縮する、危険性があろう。そのことは、国民の不満を今よりも、拡大していくことに、つながろう。

エジプトは一番早く、アラブの春革命から抜け出せる、と期待していたのだが、まだ当分は無理なのかもしれない。