サウジアラビアのサルマン国王が、カイロを訪問したが、そのなかでエジプトとサウジアラビアとの間では、多くの経済協力が合意された。同時に、アカバ湾に近いチラン海峡の、二つの島の帰属が決められた。
この二つの島は、チラン島とサナーフィル島で、エジプトとサウジアラビアの、丁度真ん中に位置している。以前にも書いたように、1956年の第二次中東戦争時には、サウジアラビアが自国では防衛できないとして、エジプトに防衛を依頼し、それ以来、エジプト領土のような感じに、なってきていた。
今回のサウジアラビアへの引渡しについては、エジプト政府によって、多くの歴史的な資料が提示されたが、国民は納得がいかないようだ。4月15日にはカイロで大規模なデモが起こり、このデモが政府によって許可されたものではなかったことから、催涙弾が使用された。
催涙弾と聞くと、涙が出る程度と思うだろうが、中東で使用されている催涙弾は、そんな生易しいものではない。毒ガス兵器のように強力なものなのだ。したがって、何人かはこの催涙弾によって、健康障害を受けていると思われる。
政府は警察に逮捕を命じ、50人ほどが逮捕されてもいるが、さすがに国民の二島返還反対派の間では怒りが昂じ、4月25日には本格的なデモを企画している。
シーシ大統領もさすがに、頭を抱えているようで『国内問題が国際問題よりも頭痛の種だ。』と本音を漏らしている。しかし、だからといって、いまさら二島返還の合意を、反故にするわけにはいくまい。
困ったことに、今回のこの問題に関して、アメリカが関心を示し始め、デモ隊へのエジプト政府の対応を、注視することになった。つまり、民主的であるか否か、ということであろう。これはアメリカ政府の常套手段であり、他国への関与の際の、国際的に通用する、免罪符のようなものだ。
エジプトの野党各派は、今回の問題を煽り立てることにより、シーシ政権を追い込もう、ということであろうが、それはエジプト経済を逆戻りさせることに、直結しよう。
そもそも、二島問題の帰属の正統性は、サウジアラビア側にあり、それをエジプト政府が受け入れたのだから、もめるべき正当性は無い。
国民の感情論と、それを利用しようとして、問題を煽る野党が結託し、エジプトを再度、アラブの春のような混乱に、持ち込もうということなのか。それは国民の生活を、ますます出口の見えない、混乱と困窮の闇に、突き落とすのだが。