数年前までは、1ドルに対して5ポンド台だった、エジプトの通貨が、その後段階的に下げ、最近では7ポンド台にまで下げていた。それがここに来て、ついに公定レートでは8ポンド台にまで下げ、ブラック・マーケットでは10ポンド台まで下げているようだ。
ムバーラク時代には、ブラック・マーケットが実質的に消え(あまり公定レートとの差が無くなり、うまみが無くなったため)ほぼ全国的に統一レートになっていた。それは経済的に土台がしっかりしていた、ということであろうか。
しかし、最近ではブラック・マーケットの勢いが増し、公定レートとの間に開きが拡大してきている、10ポンド台にまで下がったということは、数年前に比べて、エジプト・ポンドがほぼ半分の価値しか、持たなくなったということなのだ。
このエジプト・ポンド下落の理由は、産油国の石油価格下落による、経済悪化があり、その結果、産油諸国からのエジプトに対する、資金援助が減ったことにあろう。
加えて、スエズ運河の通過船舶数が、減少したこともあろうが、これは世界経済の低迷の結果だ。世界経済の悪化は当然、エジプトの経済も同様であり、経済難は否定できない。
そして、エジプトにとって最大の問題は、観光客の大幅な減少であろう。エジプトの外貨獲得には、観光収入が25パーセント程度にまで達しており、観光客の激減は、エジプトの経済を瀕死の状態に、追い込んでしまうのだ。
エジプトの観光客が激減した理由は、国内でのテロの頻発であり、IS(ISIL)の台頭や、ムスリム同胞団などによるものだ。政府はもちろん、必死にテロ対策を行ってはいるのだが、なかなか完全に止めることは出来ない。
このような状態はシーシ大統領をして、援助依頼外交をさせることになるのだが、サウジアラビアを始めとする湾岸諸国などは、その代償としてエジプト軍の協力を求めよう。
その要請をどう切り抜けるかにかかっているのだ。シーシ大統領は自身が軍人の出身であることから、出来るだけ自国軍の将兵を、犠牲にしたくないと考え、イエメン戦争でもそのような対応をしてきたし、シリア内戦でも然りだ。
これまでのところ、サウジアラビアからの派兵要請を、上手に逃れてきてはいるのだが、今後、エジプトの経済がもっと悪化すれば、そうばかりも言っていられなくなろう。もう一つ、経済の悪化について述べれば、軍に対する官僚の反発と、無言の抵抗、非協力もあるのではないか。