やはり現地をちょくちょく訪ねて、現地の人の話を聞いたり、街の様子を見ることは、情勢分析をする者にとっては、大事なことのようだ。今回のエジプト訪問では、それを痛切に感じさせられた。
エジプトのシーシ大統領に対する、私なりの評価は、極めて高いものであったし、現在もその評価に変化は無い。シーシ大統領は敬虔なイスラム教徒であると同時に、軍人上がりの現実主義者でもある。
アラブの政治家を評価する場合に、必ずチェックしなければならない点は、彼が敬虔なイスラム教徒であるか否かだ。そうでなければ国民は、大統領を信用し、付いて来てくれないのだ。
たとえそれが、見せかけのものであったとしても、イスラム教に対する真摯な姿勢を示すことは、イスラム教徒がほとんどのアラブ世界にあっては、大衆に対する礼儀であり、彼らを納得させる要素となる。
第二の要素は彼が現実的な考えを持つか否かだ。イスラム教に対する信仰が強すぎて、それが政治に大きな影響を及ぼすようでは、政治は成り立たないか、国民が窮屈な生活に、追い込まれることになる。
シーシ大統領が敬虔なイスラム教徒であるということは、就任当初から親しい友人に聞いて知っていた。彼はシーシ大統領の、極めて近くにいる人物なだけに、信用できる話であった。
そして現実的な考えと、行動は早速エジプトにもたらされた。シーシ大統領はスエズ運河を航行する、船の数を増やすために、待船の必要のないように、一部を複線にする計画を建てた。
業者や官僚が言う5年で完成を、彼は1年以内に完成させろと発破をかけ、実際に1年で第二スエズ運河を完成させている。このことは彼に自信を持たせ、軍に対する信頼を強める結果となった。
エジプトの軍にはあらゆる産業の組織がある。そのなかには建設工事を担当する部門もあり、それが第二スエズ建設で力を発揮したのだ。この結果、シーシ大統領は軍に対する信頼を強めた。
問題はその先だった。軍人の優秀な人材を政府の各部署に配置し、軍人がほとんどを、コントロール出来る形にしたのだ。しかし、軍人たちは優秀であり、大統領の信頼も厚いことから、真剣にその役割を果たそうとするのだが、残念なことに、政治の場での経験が乏しかった。
普通の官僚たちの腰が引け、軍人官僚が跋扈すると、どうしても無理が生じてしまう。その状況からどの程度で、シーシ大統領が抜け出すことが出来るかが、いま問われていよう。