『シリア・クルドをめぐる米土の利害対立先鋭化』

2016年2月10日

 

 トルコはアメリカとの強い信頼関係にある、と内外に吹聴していた。エルドアン大統領が首相職にある当時は、そうだったかもしれない。エルドアン大統領は訪米する度に、ホワイト・ハウスに招かれ、オバマ大統領と談笑していた。

 しかし、最近ではエルドアン大統領が電話をしても、オバマ大統領は返答しないといわれている。つまり、エルドアン大統領はすっかり、オバマ大統領に嫌われてしまった、ということであろう。

 それは、これまで何度も指摘してきたような、エルドアン大統領の独裁者的な言動によるのであろう。とてもまともな神経では、エルドアン大統領とは付き合えない、というのがオバマ大統領の本音であろう。

 しかし、そうは言っても、トルコのシリア・イラク問題で、持つ意味は大きい。トルコ抜きには、アメリカはシリアやイラクに対する、軍事行動が思うようには、できないからだ。

 アメリカはこれまで、不快感を抑えながら、エルドアン大統領と付き合ってきた、あるいはトルコを利用してきた、ということであろう。しかし、現段階ではアメリカのシリア・イラク計画が、ほぼ完了しているため、トルコに配慮する必要が無くなってきている。

 アメリカはシリアのクルドとの間で、次の計画に着手し始めたようだ。それはシリア北部に、クルド人に自治区同様の状態を、生み出してやったアメリカが、そこを支配するクルド人組織との間で、新たな段階に入る交渉を始めたのだ。

 アメリカの特使が先日、シリア北部のクルド地区コバネを訪問して、この地区を中心に、クルド人は今後どうして行きたいのかを、話しあったようだ。このことはエルドアン大統領の逆鱗に触れた。

 エルドアン大統領はアメリカ政府に対して『我々を選ぶのか、テロリストのクルド人を選ぶのかはっきりしろ。』と迫った。エルドアン大統領に言わせると、シリア北部のクルドの政治組織PYDや、その下部組織である軍事部門担当のYPDは、PKK同様のテロ組織ということになるのだ。

 トルコがこのクルドのPYDYPDに、不安を抱くのはシリア北部に、クルドの完全な自治区が誕生し、それがトルコ南東部のクルド人を刺激し、同様の動きがトルコ国内でも、起こることだ。そうなれば、トルコは国土の5分の1を、失うことになる。

アメリカは将来的には、トルコ、シリア、イラクのクルドをまとめて、クルド国家にしたいと考えているようだ。そのための初期の交渉が、始まっているということだ。これではトルコとアメリカは、クルドをめぐる妥協を生み出せまい。