トルコのエルドアン大統領は、エジプトにムスリム同胞団政権が誕生したとき、もろ手を挙げて歓迎した。つまり、ムスリム同胞団政権はトルコの与党AKPと、同質のものだったからだ。
述べるまでもなく、両国関係は急速に進展したのだが、2013年にシーシ国防相がクーデターを起こし、ムスリム同胞団政権を打倒すると、急速に両国関係は冷却化してしまった。
ムスリム同胞団のモルシー大統領は、幾つもの嫌疑で裁判にかけられ、いまだに刑務所に投獄されている。彼に対しては死刑判決も出たが、その後、対応が少し和らいでいるようだ。
エルドアン大統領は昨年11月のロシア機撃墜以来、厳しい国際環境に置かれるようになり、ロシアの軍事的脅威も受けている。そこで手始めに、2010年以来悪化していた、イスラエルとの関係を、修復する動きに出た。これはどうやら、前進しているようだ。
イスラエルとの関係がこじれたのは、トルコの民間団体がガザのパレスチナ人に対し、救援物資を運ぶ船に、イスラエル軍の特殊部隊が急襲し、10人のトルコ人を殺害する、という出来事があったからだった。
今回はエルドアン大統領に意向で、エジプトとの関係を修復したいようだが、基本的には彼のスタンスは変わっていない。『モルシー氏を始め、彼の友人たちの死刑判決を取り下げることが条件だ。』と言っているからだ。
またエジプト側には首相レベルでの、対話の相手も不明確だとも語っている。トルコにしてみれば、ロシアとの緊張関係のなかで、何とか地域諸国との良好な関係を創り出し、自国の味方につけたい、ということであろう。エネルギー面での協力、治安上の協力も希望しているようだ。
ただ問題は、サウジアラビアがエジプトのムスリム同胞団対応に対しては、支持の立場にあるという点だ。エジプト政府はムスリム同胞団に厳しい対応をしているが、サウジアラビアもしかりなのだ。
もう一つの点は、ロシアのプーチン大統領がトルコとの関係改善については、一歩も引かない強硬な立場を、堅持している点だ。プーチン大統領は『トルコが関係修復を望むのであれば、トルコ側が折れてくるべきだ。』と語っている。
トルコのエルドアン大統領は、コマの進め方によっては、ロシアとの関係をより一層こじらせるだろうし、サウジアラビアとの関係も、悪化させかねないのだ。そのような状況下では、エジプトのシーシ大統領が、大幅な譲歩をすることなぞ、望めないのではないか。